Futon Side Stories 9




〜旅の仲間〜




テンカイの森を旅立ってから2週間。


一行は万年山脈の雪渓をたどり、北東へと進んでおりました。




雪に埋もれてなかなか進めない一行をよそに


シンは軽やかに先陣をきって進んでいます。


雪などないかのように平然と歩き、あたりを警戒しながら安全な道を確かめつつ


皆を導いています。


時折、すぐ後ろを歩くミスラン=ディアと相談をしながら歩いているシンを見て


他のものは訝しがりました。



「おー、シンてばなんでそんなにひょいひょい歩けるんだよ。」


「まったく、何か仕掛けでもあるんじゃねーの。」


コビット達が話しているとクミコが答えました。


「ああ、あいつぁエルフだしな。」


「どー言うことよ?」


「エルフは身が軽いんだ。どんな悪路でも足を取られることはないんだよ。」


殿を務めていたトモヤーンが教えてくれました。


「「「「へぇ・・・」」」」




じっとシンを眺めているトモヤーンを見て、クミコが声をかけました。


それと見てノダッチが仲間に目配せし、すぐそばを歩いていたリエンに


まとわりつくとなんだかんだと話しかけ始めました。




一行からちょっと遅れて二人きりになると、クミコは前から気になっていたことを


聞いてみる事にしました。


「あのう・・・」


「はい?」


さわやかな大人の笑顔でトモヤーンは応えます。


「トモヤーン様は、いずれオタールへ帰る方だと伺いました。」


「・・・私の祖先はその昔、海の彼方のエルフ達の国からこの地へ渡ってきた者たちの一人でした。」



トモヤーンは自分たちさすらい人とオタールの関係を詳しく話してくれました。


オタールを興した初代の王には二人の息子が居て、


そのうち一人がエンガールの王となったのですが、今は王国は失われています。


その失われた王国の王とその臣下の血筋を引く者達がさすらい人で、


みなエルフの血を引いているために特別な力があるのです。



トモヤーンはただ一人の直系です。


エンガールとオタール、両方の王国の王位継承権を持っているのです。


そして、エンガール王国を復興しオタールの王位に就くものが現れるのは


預言に歌われた伝説の剣が鍛え直されるときなのです。


その剣は、折れた日以来、数千年もの間、サワ谷で大切に保管されているのでした。



「特別な力・・・?」


「ええ、色々とありますが・・・たとえばクミコ姫は私を幾つくらいだとお思いですか?」


「トモヤーン様が?・・・・そうですねぇ、お兄様よりは年下に見えますから


35歳くらいでしょうか。」


考えながらクミコが言うと、トモヤーンは笑って


「私は今年で86歳になります。」


と言いました。


「えっ・・・」


「驚きましたか。」


クミコはぶんぶんと首を振りますが、動揺は明らかです。


「私は、私の使命を全うしなければなりません。あなたにもあなたの使命があるでしょう?


それを捨てることは出来ないのではないですか。」


クミコはその言葉の意味をいつまでも考えていました。




数日後に一行は雪渓を抜け、乾いた岩場へと歩を移しておりました。


「よし、今日はここで野営だ。」


ミスラン=ディアの言葉に一同はほっとして腰を下ろしました。


そして、火を熾して食事の支度をするもの、薪を拾うもの、


寝床の支度をするものなどに分かれて作業をしました。




やがて食事が終わりました。


「よーし!お前ら、そこに並べ!」


クミコがコビット達に声をかけます。


「はぁ?なんだよ、疲れてんだよ。」


「お前ら、若いくせに体力も根性もなさ過ぎだ!あたしが鍛えてやるからそこへなおれ!」


「「「「ええーっ」」」」


「冗談じゃねぇよ!」


「問答無用!!」


「わぁ!危ねぇ。そんなもん振り回すなよ。」


「ほーらほら、油断してっと怪我するぞーっ!」


「信じらんねー!」


「なんて乱暴な女なんだっ。」


「いてーってば。」


「あ、おねーさーん、助けて下さいーっ!」


クミコにしごかれるコビット達を見ながらリエンとミスラン=ディアはころころ笑っています。




わぁわぁ騒ぐクミコとコビットたちを見ながら


シンはトモヤーンに話しかけました。


「あんたさ。あいつのことどうすんの?」


「クミコ姫のことかい?どう・・・とは?」


「あんた、オタールへ戻るんだろ。」


「・・・まだその時期じゃない。」


「そうかな。」


「・・・・」


トモヤーンはそっとため息をつくと言いました。


「私の血筋にどれだけの意味があるのかはわからない。


だが、時期がくれば私は必ず自分の責務を果たしにオタールへ戻らねばならない。


それは危険な道だと思う。


クミコ姫は強いひとだ。


どんな困難でも乗り越えられる力を持っているのだと思う。


共に歩む者も、きっとその力に助けられるだろう。」



そう言うとトモヤーンはシンをじっと見つめました。



「だったら、しのごの言う必要ねぇんじゃねーの?


ついてこいってひとこと言えばいいじゃん。


・・・大体お前、あいつのことどう思ってるんだよ。」



トモヤーンはそれには答えず、しばらくじっと考えていましたが


やがて独り言のように言いました。



「・・・君は本当にクミコ姫のことが大事なんだな。」


////俺のことはいいだろっ。」



トモヤーンは、ミスラン=ディアと何やら楽しそうに話しているリエンを見やりました。



「私は、自らの使命を果たさねばならないんだ。」


「それには意に染まない結婚も含まれているって訳だ。」


「それが私に与えられた運命ならば。」


「くっだらねぇ。」


「・・・ふっ。私が一人でオタールへ帰った方が君にとっては都合がいいんじゃないのかい?」


「!!!」



面白そうな顔で自分を見つめるトモヤーンを睨みながらシンは言いました。



「俺はっ・・・あいつに笑っていてもらいたいだけだっ。」



そう言うとシンは辛そうに目を背け、物見をするために皆から離れていきました。




その夜、寝ずの番をしていたシンはオークの斥候に気がついて


やってきた方角を確かめた後、そいつを倒しました。


この道は危険です。



「万年山脈を降りて南へ下りましょう。」


「そして死者の沼地へ行くのか?それなら百年峠を越えた方がいい。」


「あそこは難所だ。いっそ地下を行った方がいい。」


「では・・・」


「そう、カス=カベを抜けるとしよう。」





†††




「むにゃむにゃ・・」


「ん・・・」


「あれ、寝ちゃったのか・・・」


「じゃあ、俺が連れて行くよ。」


「ああ、起こさないようにそっとな。」


「「おやすみ・・・」」


「可愛いな。」


「起きると生意気なんだけどな。」


「お前に似てるぜ。」


「何をー!」


「ところで、お前。あの変な話、まだ終わらないのか。」


「変とはなんだ!」


「本当のことだろ。変な上に長いし。」


「うるさーい。壮大なんだよ。黙って付き合え!」


「やれやれ。」



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ここまでお読み頂き、ありがとうございます!


やっと旅が始まりました。

ストーリがあるようでいて微妙にお話のないこの話

せっかくですのでこのまま最後まで書こうかと思っております。

どうぞ、温かい目で見守ってやって下さい。


2009.8.23

双極子拝