Futon Side Stories 7
〜御前会議〜
カミヤマールの勝利から三週間後、テンカイの森にあらゆる種族の代表が集まりました。
テンカイの森の奥方、サクラエルの要請によるものでした。
「封印の力が薄れて来ている。」
一同にさっと緊張が走りました。
「まさか・・・暗黒の魔王が・・・?」
「そう。東の暗黒の地・モルシルの奥深く、滅びの山に封印されたはずの悪が甦ろうとしている。
魔王はその力を少しずつ回復し、こちらの世界の心弱きものどもを操って人心を攪乱し、
徐々に封印の力を殺いでいるのだ。」
「しかし・・」
「悪の王の味方をするものが大勢いる。
彼らは暗黒の力に支配されたあとの世界に野心を持つものどもだ。
オーク、ウルクハイ、トロール、そして人間。
奴らは結託して一斉に戦闘を始め世界を蹂躙し始めた。
人々の恐怖が暗黒の魔王に力を与えるのだ。
悪に与するものどもを倒し、魔王を封印せねばならぬ。」
「だがどうやってやると言うのだ。」
「古の封印を守る力は、我々にはもう残っていない。」
「自分の国を守るだけで精一杯なのに、他の国を守る余裕などないぞ。」
「そんなことに人手を割いている暇はない。」
「そもそもエルフの連中が昔好き勝手をやった後始末をなぜ我々がしなくちゃならないんだ?」
「そうだ、そうだ!」
「エルフは汚ねぇぞ!」
じっと聞いていたトモヤーンがついに我慢しきれなくなって立ち上がった時です。
「・・・手前ら。静かにしねぇか。」
ミスラン=ディアの静かでドスの聞いた声が一同を制しました。
「手前らの都合ばかりで好き勝手言ってんじゃねぇぞ。
暗黒の王が完全に復帰すればここにいる連中は皆おしめぇなんだぜ。
そこんところをよぅく考えてから話すこったな。」
静かになったところでトモヤーンが話し始めました。
「先日、我々は人間とエルフが協力すればオークを倒す事が出来ると知りました。
カミヤマールのキョウォン王は義理人情に厚い人柄、腕も度胸も一流です。
皆で協力して悪の連合と戦い、民や国を守ろうではありませんか。」
「お前は、守るべき国もないさすらい人のくせに何を言ってるんだ。」
ドワーフの一人がいうと皆口々にトモヤーンを責め始めました。
「そうだそうだ。無責任じゃねぇか。」
「気がむいた時だけ味方するんだろう。」
「国のない世捨て人のくせに。」
「おい、いい加減にしろ。」
じっと聞いていたシンが口を挟んだのはこの時です。
彼は、父ゴウォン・サワダールの名代として兄と共にこの御前会議に出ていたのです。
「こいつは、トモヤーン・ソロン=ギル・シノハラム。
北方の大国オタールの失われた王の血筋、オタールの王位を継ぐ男だぜ。」
ぼそりと言うと一同はしんと静まり返りました。
「とにかく、当面は悪の軍団との戦闘をどう乗り切るか、そして敵の大将をどう叩くか、
それから封印をどうするか、いま考えなければならないのはこの三つです。」
再びトモヤーンが話し始めました。
「さよう。個別の戦闘は先だってのカミヤマールでの戦のように皆で協力すればなんとかなろう。
しかし、敵の大将となると・・・」
コースケイが言うもの尤もです。
今まで個別に悪さをしていただけのオークやトロールをまとめて指揮している人物が
どこかにいるはずなのです。
それが誰なのか、まだ誰も知りませんでした。
「サルマルだ。白の賢者が裏切ったのだ。」
ミスラン=ディアの言葉に皆驚きました。
サルマルは白の賢者と呼ばれる魔法使いで強大な力を持っています。
誰よりも高潔で賢くそして古くからの世界の守護者でもあった魔法使いの裏切りに
皆は声も出ませんでした。
「戦うしかあるめぇ。」
静かに言い放つミスラン=ディアの声を聞いて、皆それぞれに戦いの決意を固めたのでした。
「誰かが封印をせねばならぬ。」
サクラエルが言いました。
「この世界にエルフの力の指輪が三個存在する。
そのすべてを使えばあるいは封印を元に戻せるかもしれぬ。
その一つはここにある。」
そういってサクラエルは、きらきらと輝く金剛石の嵌った指輪を一同に見せました。
水の力を持つ指輪カモンでした。
サクラエルがその持ち主だと言うことを知らないものも多く、
また知っているものも実際にをそれを見たのは初めてのことです。
「「「おおーっ。」」」
その美しさに、皆はしばらく目を奪われていました。
「もう一つは俺が持っている。」
そう言うとミスラン=ディアは自分の指輪、偉大なるダイモンを皆に見せました。
嵌められた赤い石に強大な力がみなぎっているのが肌に感じられるほどです。
「じゃあ、あとの一つは・・・?」
テンカイのコーゾーが問うと、
「それはここに・・・」
そう答えたのは、今まで静かにシンの隣に坐っていた人物でした。
サワ谷の王ゴウォン・サワダールの一番目の王子、
レイ・ティヌ=ヴィエル・サワダールです。
黄昏時の儚さを思わせるその美貌から「小夜啼鳥(さよなきどり)の君」と呼ばれている
美しい黒髪のエルフです。
差し出された指輪には青い石が嵌っており、光を受けて静かに輝いていました。
風の指輪サクラダモンに間違いありませんでした。
「ここに力の指輪が揃った。これを運ぶものを選ばねばならぬ。」
指輪の持ち主は滅びの山へは近づくことが出来ません。
指輪の力と一体となりすぎているために、
封印に共鳴して滅びの山の力に逆に取り込まれて消滅してしまうか、
悪に染まってしまうかどちらかなのです。
また、使者を選ぶと言っても力の指輪は持ち主を選ぶのです。
たとえ、一時的な運び主だとしても誰にでも勤まるものではありません。
「カモンは乙女にしか持つ事は出来ぬ。
クミコ・カミヤマール、お前さんにこれが持てるかい?」
サクラエルがそう問うと、クミコは言下に答えました。
「もちろん。」
「ちょっと待て、お前滅びの山に行く気かよっ。」
「おう。あたしがやらないと世界が滅ぶってんだろう?
ここでやらなきゃ女が廃るってもんよっ。」
「じゃあ、俺も行く。サクラダモンを持って一緒に行く。いいだろ、レイ?」
「ああ、父上もそうなるだろうって言ってた。」
「くそっ、親父の奴お見通しかよ。」
「では、最後の一つは、私が・・・如何です?ミスラン=ディア。」
トモヤーンが名乗り出ました。
「お前さんなら資格は充分だな。異論はないぜぇ。」
「トモヤーン様・・・////」
クミコがうっとりしている横で、シンがトモヤーンを睨んでいました。
「ふん。」
三人はそれぞれ指輪を受け取ると、鎖に通して首にかけました。
「決して指にはめるでないぞ。暗黒の魔王に存在を知られてしまう。」
「「「わかりました。」」」
「旅の途中、お前たちを守るのは俺がやろう。」
ミスラン=ディアがそう言うと、どこからか声が聞こえてきました。
「「「「待って!俺らも一緒に連れて行ってくれ!」」」」
こっそり隠れて様子を伺っていたコビットの四人組です。
「よし、お前たちも一緒に行こう。」
そのときです。
「困ります!トモヤーン様を返して下さい!!」
まとまりかけた会議の席に女の声が響き渡りました。
ひとりの美しい人間の女が、クミコとトモヤーンの間に割って入りました。
「あなたは・・・」
「私はオタールのリエン・ヨシズミウスです。トモヤーン様を迎えに来たのです!」
†††
「お、ライバル登場だな♪」
「慎、お前なんだか嬉しそうだな。」
「そうか?」
「なあ、あの時ってさぁ、お前ってまだあたしのこと好きじゃなかったのか・・・?」
「あの時って、皆で小樽に行った時のことか?」
「うん・・・お前、良かったなとか言ってたから、
あの時はそんな気全然なかったんだろう?」
「ぷぷっ。さぁな。」
「え?え?え?違うのか?」
「さーぁな。ナイショ。」
「えーっ、教えろよー。」
「ふっ。」
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長い・・・なんでこんなに長いんでしょう。
またもや長々とお付き合いくださいましてありがとうございました。
やっとキーアイテムが出てきました(笑)
あと17個はどうした!と言う突っ込みは謹んで承ります。
そのかわり、指輪の名前とかは暖かく見守って下さいませ。
こんなしょうもないお話ですが、また続きを書いてもよろしいでしょうか。
皆様の暖かいお心をお待ち申し上げております。
2009.7.11
双極子