Futon Side Stories 6



〜オークとの戦い〜






「右だ、右へ回れ!大手門を守れ!」


戦場にキョウォンの声が響き渡ります。


その声を受けて、クミコが叫びました。


「三十騎ほどあたしについて来い!脇から援護する!!」


「「「「おう!!」」」」


城壁の隠し通路からそっと出た一隊は、


大手門に殺到する敵軍の脇腹をえぐるように切り込みました。


そのまま敵兵を面白いように翻弄したクミコの隊は、


城外の味方がすべて引き上げて大手門が固く閉じられたことを確認すると撤退を始めました。




城壁の上から味方の矢が援護します。


機動部隊が次々と撤退して行くなか、殿を務めていたクミコの馬脚が乱れました。


一騎だけ取り残されるかのように遅れています。


混戦の中、城壁の援護部隊はクミコの姿を見失ってしまいました。


孤立無援で奮闘していたクミコが今にも囲まれそうになったとき、


きらめく矢がクミコの周りの敵に次々と刺さりました。


「今のうちに撤収しろ!早く!」


城壁の上で矢を放ったのはシンでした。


混戦の中、クミコの危機をいち早く悟り人間業では到底出来ないエルフの遠矢で


クミコの命を救ったのです。


「おーっ!ありがとなーっ!」


叫びながらクミコは残りのオークを切り捨て、城内へと引き上げて来ました。




シンとコビットたちが黄金館へ到着してからおよそ一ヶ月が経った頃、


斥候たちの情報通り、オークの一個師団が寄せてきました。


それが三日前のことでした。




キョウォンは、カミヤマール一帯が蹂躙されるのを防ぐため、


西のはずれ、万年山脈の峡谷を跨ぐ要塞、螺貝城に立て篭っていました。




この日のために篭城の準備をしていたカミヤマール軍は


鉄壁の守りを誇る城壁と断崖絶壁を頼みとして


およそ十倍の兵士相手に善戦し、敵を三分の一にまで減らすことに成功していました。


しかし、外からの援軍が来ない以上、消耗戦を続けるしか打つ手はないのです。


味方にじりじりと焦燥が広がっていました。



トモヤーンはそんな城の人々を元気づけて回ります。


希望は常にあるのだと。


「でも、城の糧食はあと一週間と持ちますまい。」


「火矢にやられたのが痛かった。」


「どうなるんだろう、俺たち・・・」


「このまま死ぬのかも。」


「「「「「・・・・・」」」」」




トモヤーンが皆を叱咤します。


「恐怖に負けては駄目だ。希望を持つんだ。必ず助けは来る。


さあ、怪我をしたもの、疲れたものは奥へ入ってゆっくり休みたまえ。


・・・クミコ姫。あなたも少しお休みなさい。」




「いえ、そんなことは出来ません。皆も、それにお兄様も戦っておいでです。」


強情にそう言い募るクミコの姿は、酷いものでした。


鎧は返り血と泥で汚れ、ふっくらと白かった頬は日頃の血色を失い


疲労の色がありありと浮かんでいました。




「だからこそです。あなたまで倒れてしまったら、誰が城の皆をまとめるのです。


休息して回復するのもあなたの務めですよ。」


「でも・・・」


「さ、寝所までお送りしましょう。」


「はい・・・////」




一方こちらは王の間です。


「キョウさん。」


「おう、シン公。クミコはどうした?」


「トモヤーンが寝所に連れてった。」


「ふぅん・・・」


「しょうがねぇじゃん。俺が言っても聞かねぇんだから。」


「あの小せぇ連中はどうしてる?」


「女と子供が避難している裏の洞窟の守備隊に回ってもらってる。


明るい奴らだから、皆の動揺を抑えてくれると思って。」


「いい判断だ。」


そこへトモヤーンも戻って来て、皆で今後の方針を遅くまで話し合っていました。




その日の未明のことです。


ズゥーンと腹に響くような大音響が轟きました。


「陛下ぁ!大変です!城壁が、城壁があああ!!」



いかなる魔法を使ったのか、千年の永きに渡り螺貝城を守った城壁が


無惨にも崩されたのです。


開いた穴からオークどもが次々と侵入してきます。


知らせを聞いたシンとトモヤーンはすぐさま飛び出していきました。


「おい、誰かいねぇか!」


キョウォンが大声で叫びます。


「「へいっ!!」」


駆け寄って来たてつとミノルに武具を持ってこさせると、キョウォンが下知します。


「野郎ども!!討って出るぜぃ!!付いて来いっ!!」


「「「「「おおーーーーーーっ!!!」」」」」




崩れた城壁の周辺は大変な混戦状態でした。


かろうじて残った城壁の上で、弓矢隊が奮戦しています。


その下では、激烈な白兵戦が繰り広げられていました。


トモヤーンもシンも最前線に躍り出て敵と激しく切り結んでいます。


「とおりゃあ!」


トモヤーンの後ろから切り掛かろうとしたオークを、なぎ倒した者がいました。


「ああ、ありがとう。」


その人物を見てトモヤーンとシンは驚きました。


「クミコ姫!」


「クミコ!お前はもう少し寝てろっ。」


「へっ。もう充分休んださ。寝てなんかいられるか!」


「そんなにヘロヘロじゃあ、たいして役には立たないだろ。」


莫迦にしたようにシンが言うと


「へへん。ここに来るまでに、もうオークを12匹も片付けたんだぜ。」


どうだとばかりにクミコが言い返しました。


「ふん。俺なんか、もう13匹はやったね。」


言いざま、シンは脇から切り掛かって来たオークに持っていた矢を突き刺します。


「これで14だ。」


「なんだとう、ちょっと待っとけよ。」


クミコは剣を構えると、オークの群れを迎え撃ちます。


「13、14、・・・・15、っと。どうだ!・・うおっ。」


「クミコ姫!」


足を取られたクミコを咄嗟にトモヤーンが抱きとめます。


「わぁ////ありがとうございます////」


「バカヤロウ!戦場で乙女になってんじゃねぇ!」


シンが叫んでぽーっと立っていたクミコに切り掛かろうとしていたオークを倒しました。


「お、おぅ。悪りぃ。世話かけちまった。」


「ふん//// 15、だかんな。」


善戦するクミコたちの周辺では、しかし味方が一人また一人と倒されていくのでした。




朝日が昇り始める頃には徐々に味方が押され始め、次第に城内に追いつめられていきました。


そのときです。


東の崖上で角笛が響き渡りました。



ミスラン=ディアの角笛です。


ミスラン=ディアが、援軍を引き連れて帰ってきたのです。


トモヤーンの臣下であるさすらい人たち、


ミスラン=ディアの朋友であるテンカイの森のエルフたち、


そして先王の時代にカミヤマールから分家したコースケイ王とその臣下たちでした。


「この崖を騎馬でくだれるか?」


ミスラン=ディアが聞きます。


「鹿なら降りるでしょう。」


さすらい人たちが答えます。


「鹿が降りられるのなら、馬が降りられぬことがあろうか!」


「行くぞーーーっ!!」


「「「「「「おおーーーーーーっ」」」」」



崖の上の騎馬部隊は、閧の声を上げると一斉に崖をくだり始め


オークの軍団を見る見るうちに蹴散らしていきました。





†††




「「・・・(ほぅ)」」


「どうした?ため息なんか付いて。」


「よかったぁ。」


「かったぁ。」


「うん、ほっとした。」


「おもしろかったよ、こんかい。」


「うん、ともやーんがかっこよかった。」


「みすらん=でぃあも!まほうつかい、かっこいい!」


「そっか。じゃあ、寝ようか。」


「「はぁい。おやすみなさぁい。」」


「ん、おやすみ。」




「なあ。」


「ん?なんだ慎。」


「これって中世ヨーロッパが舞台なんじゃないの?」


「うん。ちょっと違うんだけど、基本的にはそうだな。」


「お前さ、これじゃあ戦国合戦絵巻だろ。


話がいろいろ混ざってないか?舞台はどこなんだよ。」


「ん?まあ、細かいことは気にすんな!」


「やれやれ。」





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初めて見た時から思ってたんですよ。

どう見ても鵯/越だよなぁって(笑)

/教授は義/経をご存知・・・なんて事はないのでしょうが。


戦いばかりじゃ殺伐としているので、色々入れたら少し長くなってしまいました。

いつもの三割増です。

お付き合いいただきありがとうございます。


まだまだ続きそうです。

皆様の温かいお言葉に甘えて、もう少し続けたいなぁなんて

考えておりますので、よろしくお願いします。


2009.6.29

双極子拝