Futon Side Stories 13
〜滅びの山〜
重い身体を引きずって、一行はようやく滅びの山の中腹にある滅びの亀裂にやってきていました。
この滅びの山の焔はかつて魔法の指輪を生み出した火です。
同じ力で作られた封印が亀裂の中にあると伝えられていました。
中腹の門を入ると石畳の細い道が亀裂の奥へと続いています。
突端まで行って下をのぞくとそこは眼もくらむような高い崖で、
足元には溶岩が煮えたぎっているのでした。
溶岩流に突き出した小さな石舞台まで行くとシンはそれを調べ始めました。
石舞台の上に封印が浮かびあがっているのです。
滅びの亀裂を背中に向けて美しい装飾を施された面をこちら側に向けていました。
しかし、封印はどこかいびつな形をしていました。
欠けているのです。
「シン、わかるか?」
「ああ、欠けている部分を指輪で補えばいいんだ。
クミコ、カモンをここに持ってきて。」
シンはクミコから指輪を受け取ると両手の間に浮かべて凄まじい念を送り始めました。
カモンは次第に姿を変え、終いには一筋の輝く光となって封印の一角を包みました。
同様にサクラダモン、ダイモンについても念を送って光の塊とし
封印に取り付けていきました。
歪だった封印は、ほぼ元通りの形に戻りました。
前とは比べ物にならないくらいの強さで清らかな光が溢れてきます。
気がついた魔王が激しく暴れ始めたようです。
その様子をじっと見ながら考えていたシンは、やがて何事かを決意してひとり頷くと
一同を振り返りました。
皆ここまで来るのに生も根も尽き果てています。
シンはコビット達を優しく労いました。
「ここまでよくやってくれたな。
お前達、これが終わったら俺の屋敷に来いよ。
前から欲しがっていた羽枕と絹のシーツをやるから。
ワインとチーズが貯蔵庫にあるからそれも好きなだけ食べていいぞ。
クマは結婚するんだろう?お前のお気に入りの細工箪笥をやるよ。」
「シン・・・?」
急にそんなことを言いだしたシンをコビット達は驚いて見つめています。
「何だよ、んなこと言い出して。」
「そうだよ。なんだか遺言みてぇじゃなねぇか。」
「「どうしたんだ??」」
口々に聞くコビット達を見回すと、シンは今度はクミコに向き直って言いました。
「クミコ、抱きしめていい?」
「あ?おぅ・・・」
クミコは咄嗟になんと言っていいかわからず、へどもどしています。
「俺さ、今まで二千数百年の時を生きてきてさ、
お前ほど愛おしいと思う相手に会ったことなかった。
今まで生きてきた分が、無意味に思えるくらい、お前との出会いを大切に思う。」
そう言うとシンはクミコをふわりと抱きしめて、口付けをしました。
深い口付けで、まるで森の樹々のざわめきや星々のさやぎを
感じるような、不思議な口付けです。
クミコに取って生まれてはじめてのキスでした。
「クミコ、愛している。永遠に・・・」
クミコを見つめてそう言うと、シンはクミコから離れて封印の裏側に回りました。
向こうは崖を残すのみです。
「お、おい、シン。何やろうってんだよ。」
「力が足りないんだ。」
「「「「え??」」」」
「3つのエルフの指輪に秘められた力を解放しただけじゃ
わずかに足りないんだ。」
「じゃあ、どうすればいいんだよー。」
「一つ、方法がある。」
「「「「うんうん、流石シンちゃん。」」」」
「指輪の力の源は、エルフの命なんだ。
だから足りない分を封印に注ぎ込めば、封印は復活すると思う。」
「足りない分て・・・?」
「だから、エルフの命。」
「どうやってそんなことやるんだ?」
「「???」」
クミコだけがシンの言葉の意味を理解して、シンの服をしっかりと掴みました。
「待て!許さないぞ!」
その手を優しく解くと、シンはもう一度クミコに口付けをしました。
「さようなら・・・いつまでも元気出な。」
そう言うとシンは心の底までしみいるような深い笑顔をたたえました。
そのままシンはひらりと身を躍らせ、
その身体はゆっくりと滅びの亀裂へと落ちていったのです。
咄嗟にのばしたクミコの手は届かず、宙を切るばかりでした。
「「「「「シーンっ!!」」」」」
†††
「うわああああん」
「うわあ、しんがーしんがー」
「しんじゃったよぉ。うわああああん」
「ただいま、っと。どうしたんだ?」
「おとおしゃん、しんがね、しんがね、しんじゃったぁー、うわぁあん。」
「ううっうっ、慎〜、シンが死んじゃったよーっ!」
「ってそれお前が書いたんじゃないのかよ。」
「でも、悲しいー。うわぁあん。」
「親子して何やってるんだか。よーしよし、皆、お父さんに任せてみなー。」
「ひっく・・・」「・・・ふぇっ」
「うっく・・」
「どれどれ、ちょっと待ってな。」
†††
「さようなら・・・いつまでも元気出な。」
そう言うとシンは心の底までしみいるような深い笑顔をたたえました。
そのままシンはひらりと身を躍らせ、
その身体はゆっくりと滅びの亀裂へと落ちていくかに見えました。
咄嗟にのばした久美子の手が、ガシリとシンの腕を支えました。
†††
「ほら、これでいいだろ。助かったぞ。」
「「うん、おとーさん、ありがとう・・・ひっく・・」」
「慎ー!ありがとーっ!!グスッ・・」
「ったく、自分で書いたくせに何やってるんだよ。
さ、続きは明日にして、もう皆、おやすみー。」
「「「はぁい。」」」
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ここまでお読み頂きありがとうございました!
久美子さん、自分で書いたくせに何やってるんでしょうか(笑)。
とにかく、慎ちゃんの咄嗟の機転でエルフの王子は一命を取留めました。
この続きは、気を取り直した久美子さんが考えついてから、
と言うことで今回はこんなところで失礼します。
このへんてこなんちゃってファンタジーももう少しで終わります。
もう少しの間だけ、付き合ってやってくださいませ。
2009.11.9
双極子拝