Futon Side Stories 12
〜香り草入り兎肉シチュー〜
旅の仲間が二つに別れた後、モルシルに向かう一団は、クミコ、シン、
ノダッチ、クマ、ミナミ、ウッチィの6人です。
コビットの4人は今4人全員で指輪運びをしています。
1人では負う事の出来ない指輪の重荷も4人の力を合わせれば
負うことが出来るのです。
これは自然を友とする素朴で善良なコビット族だからこそ出来る事です。
「ああ、腹減ったなぁ・・・」
歩きながらクマがぼやきます。
「そういやあそろそろ飯の時間だよな。」
「なあなあ、シンー、飯食おうぜ、飯ーっ。」
コビット達が口々に言いますが、先を急ぐクミコとシンは耳も貸しません。
「さっき食べたろう?」
「あれは昼飯じゃないか。」
「そうだそうだ。午後の軽い食事がまだだーっ!」
「エルフのパンだけじゃ持たないよぉ。」
「しょーがねぇな・・・あれは一口で一日分の行軍が出来るくらい栄養があるんだぞ。」
一行がテンカイの森を出発するときに、森の奥方サクラエルがくれた餞別の一つに
エルフのパンがありました。
コンジョーヤキと呼ばれるその薄く軽いパンは、エルフが行軍の際に携行する糧食で
手のひらほどの小さなものですが、ほんの一口かじるだけで
一日中歩いても疲れないくらい身体に元気がみなぎる不思議なパンでした。
と言ってもそればかりではやはり寂しくなるのは人情と言うもの、
コビット達は日に日に寂しくなる食料事情を憂えていました。
そんなある日のことです。
先頭を歩いていたシンが突然立ち止まると左手の薮に向かって矢を打ち込みました。
ひゅっと音がして矢は遥か向こうのこんもりした小さな薮に刺さりました。
続いて、また一本、二本・・・計五本の矢を射ち終わると
シンは駆け出していきました。
戻ってきたときにはその手に五羽の兎が握られていたのです。
「うおぉ!シン、やったなぁ!!」
「わぁい、久しぶりのご馳走だっ。」
「すっげぇぜ、流石シン!」
「腕が鳴るぜ。」
クマがいそいそと兎を受け取り、一行は野営をすることになりました。
「ジャガイモがあればいいのになぁ・・・」
クマはぶつぶつ言いながら付近を探して月桂樹やセージ、タイムを見つけだし
ついでに野生の蕪も見つけて捌いた兎と一緒に煮込み始めました。
モルシルに近づくにつれ指輪の魔力に苛まされていたクミコとシンは
ぐったりと横になり、苦しそうな寝息を立てています。
丁度指輪を持っていたノダッチとその前に持っていたミナミもだるそうにしています。
疲れ果てた一行を見ながら、クマはウッチーに火の番をしてもらいつつ
とろ火でシチューを煮込み、皆のためにささやかなご馳走を用意したのでした。
こうして一行は荒野を進み、厳重な警戒下にあるモルシルの表玄関・黒門を大きく迂回し、
岩屋根に穿たれた急な階段と暗い洞窟を抜け、やっとの思いでモルシルに辿り着きました。
魔王の支配力が色濃く及ぶ暗黒の地、モルシルはその名の通り
暗くいじけた大地が続く、陰鬱なところでした。
遥か遠くに盛んに焔を吹き上げる活火山、滅びの山が見えます。
その中腹にある亀裂の底から覗く溶岩流のほとりに
魔王を封じる封印があるはずでした。
彼処まで行くのに、あと2週間はかかるでしょう。
モルシル中に蔓延るオークとウルクハイの目から逃れ、荒れ果てた大地を行かねばなりません。
一行は重い身体を引きずって、滅びの山へと歩を進めていきました。
一方、オタールでは決戦が始まっていました。
カミヤマールからの援軍も駆けつけ、白の都の南野は大混戦となりました。
戦況は一進一退で勝敗の目処は誰にもつかず、兵達は次第に疲弊していったのです。
†††
「はい、今日の分はおしまい!ん、どうした?」
「・・・みっみーちゃんたべちゃだめ・・・」
「うさぎのみっみーならここにいるじゃん。」
「いるけどたべちゃだめだもん・・・」
「へへーっ!ばっかみてぇ!これとはちがうだろっ。」
「ちがうけどだめなのー。」
「ばーかばーか。なーきむしー。」
「なによっ!」
「いてっ!えいっ、しかえしだっ!」
「いたっ、このっこのっ!」
「うわあーん。えいっえいっ!」
「いたいっいたいっ、うぇーん・・」
「こらこら、何やってんだ。喧嘩しちゃだめだろう?」
「「うわぁあん・・・」」
「やれやれ。」
†††
こんにちは、双極子です。
拍手頂きまして誠にありがとうございます!
一つ一つが元気の元です♪
今回、とりとめのないお話ですみません。
タイトルを使いたかっただけなんです(汗)
だって美味しそうなんだもん・・・
さて物語も佳境です。
皆様の温かいご支援、お待ちしておりますです。
2009.10.17
双極子拝