Futon Side Stories 11
〜オタールの決戦〜
あともう少しで暗黒の地モルシルへたどり着く、と言う頃のことでした。
一人の使者が一行のもとへとやってきました。
「レイ!どうしたんだ、お前。」
「やあ、元気そうだな、シン。お前の様子は父上から聞いているよ。
あの人は時々遠見で眺めているからな。」
「ったく、あの過保護親父め。」
「ばーか、いい親父さんじゃねぇか。親兄弟は大事にしろぃ、シン公。」
「いってー。手加減しろよ、クミコ・・・」
「で、お前ぇさんの用事はそんなこっちゃねぇんだろ。」
ミスラン=ディアがそう言うとレイは頷いて、トモヤーンの前に出ました。
「トモヤーン殿。いや、エレッサールよ。今こそ運命の時は来た。」
そう言って抱えていた細長い包みをはらりとほどくと
中から美しい剣を取り出したのでした。
「ナル=シルの剣・・・っ!」
「じゃあ、折れたる剣が・・・」
「そう。鍛え直されたんだ。」
レイはトモヤーンに剣を差し出しました。
じっと見つめていたトモヤーンは、やがて柄に手をかけるとすらりと抜き放ちました。
刀身が光を受けてきらりと光りました。
まるで焔が宿っているようです。
「アンドゥ=リル・・・西方の焔と名付けられました。」
「では・・・」
「帰る時が来たようじゃな。」
「リエン殿。オタールは危機に瀕しています。今すぐに戻らねばなりません。」
「父は・・・」
「執政殿はお亡くなりになりました。
そして悪の魔法使いサルマル自らが大軍を率いてオタールへ迫っています。」
「ああ、なんてこと!!!
私はすぐに戻ります。トモヤーン様、一緒に来て頂けますよね?」
「・・・しかし・・・」
トモヤーンは首に下げた偉大なるダイモンを見下ろしました。
これを滅びの山まで運ばねばならないのです。
「すぐに!一緒に来て下さい!魔法使い殿!トモヤーン殿を解放してあげて下さいっ。」
「いや、俺ゃ別に引き止めちゃいねぇよ。」
「トモヤーン殿。こちらのことはあたし達に任せて、帰って下さい。」
「クミコ姫・・・」
「おねがいです!あなたの民を見捨てるのですか?」
「リエン殿・・・」
「ダイモンは俺が預かろうよ。」
ミスラン=ディアが言いました。
「しかし、それでは・・・」
「なあに。こんな老いぼれだ。何か起こっても後の心配あるめぇよ。」
「そうだ、コビットがいる!おまえたち四人でこれを預かってくれないか?
コビットならば人よりも誘惑に強い。そして一人では持てなくても四人でなら・・・」
シンがそう言うとミスラン=ディアは大きく頷きました。
「いい考えだ、エルフの王子。ノダッチ・バギンズ!」
「うわぁ、はいぃっ!!」
「お前がこれを持つんだ。あとの三人はノダッチの手助けをするんだぞ。
辛くなったら替わってもらってもいい。
だが、絶対に離れるんじゃねぇぞ。」
「ううう・・・わかりましたよ・・・持ちゃあいいんでしょ。」
「さ、手を。」
「うわわわっ。なんだこれ、なんでこんなに重いんだよ!」
「三人のそばへ行ってみろ。」
「あ、軽くなった気がする・・・」
「その調子だ。」
「じゃあ、俺はひとっ走りカミヤマールへ知らせに行くとするか。」
ミスラン=ディアが言うと
「いいえ、カミヤマールへは私が知らせましょう。
エルフの狼煙を使います。」
レイがその役を引き受けました。
「頼みます。ミスラン=ディア、リエン殿を連れて一足先にオタールへ
入城して頂けませんか?私は仲間を集めて後から行きます。」
トモヤーンはオタールへの帰還を決意すると、リエンとミスラン=ディアに
そう言いました。
こうして、一行は別れ別れの道を行くことになったのです。
一番最初にオタールへ着いたのはミスラン=ディアとリエンです。
ミスラン=ディアの愛馬・正宗は、さながら一昼夜で千里を駆けると言う
伝説の王の馬の再来でした。
ふたりは正宗に跨がって不眠不休で走り続けたのです。
そうしてオークとウルクハイの本体がオタールの白の都を取り囲む直前に
ふたりは白の都へと入城することができたのでした。
篭城するならば女子供の安全を図らねばなりません。
リエンは執政官の椅子に座ると、後詰めの指揮を執り始めました。
「兵を集めよー!!立てるものは武器を取れー!!決戦に備えよー!!」
ミスラン=ディアは直ちに兵を集め下知を下します。
指揮を執るものの不在で浮き足立っていた兵達は勇気づけられました。
城壁に並び、城の南側の野に展開する敵軍に備えます。
また別の一隊は、城の大手門を守るべく城壁の内側に集合しました。
巨大な丸太と石を運んで門の前に積み上げ守りとし
自分達はその内側へ身を潜めます。
ここが破られれば自分達の負けなのです。
皆、都を守ろうと必死でした。
城の物見から一望できる広い南野は、今、一面の敵軍で覆われています。
前面には、攻城櫓がずらりとならび、その後方には投石機、
そして槍隊、弓隊が控えています。
更にその後方には武装した巨大なじゅうに乗った一個大隊が連なっています。
その中央に敵の大将、かつて白の賢者と称された魔法使いサルマルの陣があります。
物見の上からその姿を見たミスラン=ディアは闘志を込めた
凄まじい眼光で睨みつけました。
こうして、世界の命運をかけた世紀の一戦の火蓋は切って落とされたのでした。
この広い大地のどこかを、滅びの山へ向かって進んでいるはずの
善良な者達の担う運命の指輪が、すべての鍵を握っているのです。
†††
「たたかいだ!たたかいだ!わーい。」
「ふふ、面白かったかい?」
「うん、すっごく!」
「えー。なんだかなー。」
「え、面白くなかった?」
「んー・・・えるふのおうじがもっとでてきたらいいのに・・・」
「シン?シンなら次に出してあげるよ。」
「ちがう!れいのほう。」
「ええっ。お父さんじゃだめかい?」
「だめー!」
「まあいいけど。」
「ただいま。・・・お父さんがなんだって?」
「「「なんでもなーい!!」」」
「そう?」
-------
こんにちは!双極子です。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
このお話の元ネタの小説、S田先生の名訳は私などが触れなくても知れ渡っております。
数々の素晴らしい訳語がありますが、中でも私が気に入っているのは
Oliphaunt=じゅう
です。
ぞうを連想させるし、けだものを連想させるし
素晴らしいなあ、と思うわけです。
さて、物語は後半に入って戦いが多くなりますが
ま、久美子さんの趣味だって事で、よろしくおつきあい下さいませ。
2009.9.17
双極子拝