Futon Side Stories 10



〜カス=カベの坑道〜



暗闇にぽっと灯りがともると、辺りの様子が浮かび上がりました。




ミスラン=ディアが掲げる杖の先端から放たれる白い光に照らされて


数百本はあろうかと言う太く高い柱の群れが見えました。


高い天井は、数十mはあるでしょうか。


辛うじて届く光の下ではぼんやりとしか見えません。


回廊は前後左右、見渡す限りに続いているようです。


一行は眼の前に広がる神秘的な風景に声も出ませんでした。




「カス=カベ・・・いにしえのドワーフの手による最高傑作じゃ。」


「すっげぇ・・・」


「話には聞いていたが・・・」


「ああ、これほどとは思わなかった。」


「すごいですね・・・」


「「「「うわぁ・・」」」」




万年山脈をたどる道を断念した一行が選んだ道は、この暗闇の中を行くことでした。


何が潜んでいるのかわからないので危険なのですが


地下を一直線に進むこの道は、行程を1/3に縮めることのできる近道でもありました。


「これって何のために作ったものなんだ?」


コビットたちが聞くと、ミスラン=ディアは答えました。


「元々は大河ニムグロールウィンが溢れた時、その水を逃がして


河の神を鎮めるために作られたものだってぇ話だな。」


「どの位のあいだ、ここを歩くんだ?」


暗闇が嫌いな恐がりのウッチーが心配そうに聞きました。


「そうさな・・・まず四日あれば、向こうに抜けられるだるぉ。」


「「「「四日ぁ!?」」」」


「ほらっ!いい若いもんがため息なんかついてんじゃねぇ!


あたしが掛け声かけてやるからさっさと歩け。ほらっ、オイッチニ!サンシ!」


「うっせーよ・・・誰がするか。」


「なんだとぅ!」


「だまって歩けねぇのか、お前らは・・・(呆)」




廃墟のような坑道の中には、ドワーフやオークどもの干涸びた遺体が


そこここに散らばっていました。


ミスラン=ディアによると、どれも古いもので


坑道内の縄張り争いのあとであろうと言うことでした。




暗闇の中を辿ること、四日。


一行は、反対側の出口までやってきました。


残るのは、細い石橋だけです。


深い、地の底まで続くかと思われる亀裂の上に、


人ひとりがやっと渡れるほどの石橋が架かっているのです。


「ひえぇぇーーー」


高いところが苦手なミナミが真っ青になっています。


まず最初に身の軽いシンが渡り、安全を確かめた上で一行に順番に渡るように言いました。


トモヤーンが付き添ってコビットたちとリエンをまず渡らせました。


そうして、クミコが渡り一番最後にミスラン=ディアが渡ろうとしたときです。


亀裂の底から橙色の炎が沸きあがりずうんと言う凄まじい地響きが聞こえました。


と、同時に先に渡った一行が消えた通路の奥から魂消るような叫び声が聞こえました。


「うぎゃーーーーーーーーーーっ!!」


「助けてくれーー!」


「うわぁー、ミナミーーっ!」


「誰か、来てくれっ。」


「大丈夫か、しっかりしろっ!」


クミコ達があわてて駆けつけると、溝に落ちたミナミをシンが助け上げているところでした。


「なんだ、それだけ?あんなもの凄い声で助けを求めるから


二人ぐらいは殺られたかとあきらめたのに。」


「あきらめるの、はえーよ。」


ミナミの一言に一同は苦笑し、トモヤーンが元気よく声をかけました。


「さあ、行こうか。出口はすぐそこだ。」




†††



「「あれ?それでおしまい?」」


「そうだぞ?だめか?」


「なにもないじゃん。つまんないっつまんないーっ!」


「ただあるいてるだけじゃないかー。」


「ええ?そうか・・・じゃあちょっと待っててな。」


「「うんっ!」」



†††



地の底からまた地響きが聞こえました。


禍々しい気配が立ち上ってきます。


その気配をいち早く察したシンが切迫した調子で叫びました。


「ミスラン=ディア!!」


「わかっておるっ!トモヤーン!シン!皆を連れて早く行けぃ!


ここは俺が食い止めるぜぃっ!」


錬獄の焔を吹き上げながら、敵がその恐ろしい正体を表しました。


城の塔ほどもある赤い巨体、恐ろしい牙をむいた頭部には二本の角が生えています。


黒く光る板がはめ込まれているのか、瞳はよく見えません。


金の釦らしきものがずらりと並んだ黒い衣をまとった怪物は


恐ろしい声を上げながら、だんだんと近づいてきました。


「そいつの弱点は、鳩尾です!」


クミコが叫ぶと


「わかっておる!」


言下にそう答えたミスラン=ディアは、杖を怪物の鳩尾にいれ


膝をついたところで今度は眉間に杖の先から放った白い焔をぶつけました。


もの凄い絶叫とともに、怪物は亀裂の底へと落ちていったのでした。



†††



「ねぇねぇ、おかあさんってむかし、おにをたおしんたでしょ?」


「そうだぞ。鬼に捕まったお父さんを助けたんだ。」


「おかあさん、すごーい。」


「すごいすごい!」


「ふふふっ。」


「ねぇねぇ、おかあさん。」


「なんだ?」


「おとうさんて『へたれ』なの?」


「ええっ?誰かにそんなこと言われたのかい?」


「うん。きょうおじさんが。」


「うん、いってた。」


「ったく、京さんてば。子供に変な事吹き込んで・・・」


「じゃあおとうさん『へたれ』じゃないの?」


「違うぞ。だからそんなこと、お父さんに言っちゃ駄目だからな。」


「「はぁい。」」


「ただいまー。」


「おっ。お疲れ!」


「「おかえりなさーい。」」


「ないしょ、な?」


「「うん!」」




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埼玉県春日部市に、首都圏外郭放水路と言う施設があります。

中川などの洪水を防ぐための非常に大規模な地下放水路です。

この中に調圧水槽と言うものがあるのですが

写真を見た元ネタマニア全員が「カザ/ド=ドゥム・・ッ!」

と叫ぶに違いない、と言うくらいそっくりです。

時折ですが一般にも公開されているので、一度行ってみたいと思いつつも

なかなか実現できないでいます。

ご存じない方は、是非一度写真を見てみて下さい。

元ネタをご存じない方でも、一見の価値ありだと思います。


今回も長々とお付き合いくださいましてありがとうございます。

自己満足度100%のこんなお話ですが

もう少しおつきあい下さいませ。


2009.9.4

双極子拝