龍一郎が京太郎を伴にして神山の料亭へと向かった同じ頃。


久美子とシンはショッピングに来ていた。

大抵のものはオンラインで買うことが出来るし、実物大の3D映像も見ることが出来るからわざわざ外に出てまで買物をする必要はないのだが、食品や日用品など毎日使う物以外はこうして外に買いに出る者が多かった。


街を歩いてぶらぶらと大量の商品を見て回る。大抵の人間に取ってショッピングは一番手軽な娯楽なのだ。それはどんなに便利になっても変わらない習慣のひとつだった。


と言う訳で、久美子はまず服から見ることにした。

久美子は着るものには一向に頓着しない質なのだが、活動的(?)であるので服の寿命は短い。気が付くと着られる服が一着もないなどと妙齢の女にあるまじき体験をしたりする。そのことは同僚の藤山静香に散々ネタにされていて、今日もまた学校でかぎ裂きを作ってしまった久美子は、何か言われる前にとこっそり服を買いにきたのだ。


たくさんの服が並べられたショッピングモールを歩きながら、久美子は慎の様子がおかしいのに気が付いた。


「どうした?変な顔して。」


「ん?ああ・・・こんなに服が並んでるのなんて初めてみた・・・」


「はぁ?お前、買物したことないのかぁ?」


「そんな事はない・・・と思うけど。」


シンはなんだか自信なさげだ。


「うーん、あんまりお前が普通にしてるから忘れてたけど、お前ってまだ記憶戻ってないんだな。ここに来た覚えないってんなら、この街出身じゃないのかもな。」


「・・・・」


「あっ!ZUIKIの靴!穴があいちまったんで買わなきゃいけないと思ってたんだ。しかも、限定色の赤があるー!」


「おい、待てっ。」


急に方向転換して走り出した久美子をシンは慌てて追いかける。

靴屋の店先でようやく追いついた。


「お前、この靴。」


「ん?いいだろ。気に入ってるんだ。だから通勤用はいっつもこれだよ。あ、お前にも買ってやろうか。」


シンは久美子がほくほく顔で手にしている靴を見る。


「いらねぇよ。これって特殊環境活動用じゃないか。」


「そ。装着圧力は一千万の一気圧から千気圧まで、使用可能温度はマイナス二百度から二千度まで、耐酸性、耐腐食性で電波からガンマ線まで反射する裏地付きと言う素晴らしい靴だ!金星でも火星でもこのまま歩けるんだ!」


「学校行ってるだけで、なんでんな靴が簡単に壊れるんだよ、お前。」


「う・・・ま、その色々と・・・さ、最近の高校はハードなんだよ!」


「ったく。で、買うのそれ?」


「おう、買う!すみませーん。」


久美子は店員の持ってきたクレジット認証用センサーに指紋と瞳孔をかざして代金を払うと、個人宅配を頼んで店を出た。


「さ、次行くぞー!」


「はいはい。」


と、その時だった。

すぐ間近で空気を引き裂くような大きな音が起こった。