事務所のソファで手足を丸めて眠り込んでいた少年が、ふっと目を覚ました。

起き上がってきょろきょろと周りを見回している。


「あ、起きやしたぜ。」


少年の身体にかけられていたタオルケットがはらりと落ちた。

少年は全裸だった。均整の取れた細い身体に白い肌、薄い色の虹彩が映える美しい面差し、程よく筋肉ののった胸から微かに割れた滑らかな腹、そして・・・


「わっ!な、何だよお前っ!」


久美子はいきなり目の前に出現した少年の「男性」を見て赤面した。少年のそこは赤い毛に縁取られて重みを持った果実の様に揺れている。


「は、早くそれを仕舞え!ばか!」


久美子の言葉にてつとミノルが慌てて少年の身体にタオルケットをかけなおす。懸命に動悸を鎮めると、久美子は少年への質問を開始した。


「まず名前を聞こうか。」


少年は久美子を見上げるが返事はない。


「お前、どっから来たんだ?」


「・・・・」


歳は、家はあるのか、服はどうしたのか、次々と質問をするが少年は黙って首を傾げるばかりである。相変わらず声は出ない。表情もぼんやりとしたままで、周りのことにほとんど反応しない。これは一筋縄ではいかないと、久美子は方針を変える事にした。


「お前、これからどうしたい?」


「・・・・」


「だめっすね、お嬢。これじゃ埒があきませんや。」


「どうしやしょう?」


皆で言い合っていると、

ぐぅ・・・


少年の腹が鳴った。


「ぷっ。しょうがない。何か適当な服を着せて飯を喰わせてやんな。おい、お前。」


言いさして久美子はちょっと考える。何か、呼び名がないと不便だな。ふと、久美子の目が少年の滑らかな鎖骨に止まった。首にかけられた細いチェーンに銀色のプレートが付いている。手を伸ばして触るとそれはあっさりと外れた。


「何か文字が彫ってあるな・・・S・・H・・・I、最後は・・・N・・・かな。SHIN?これ、お前の名前か何かか?」


聞きながら少年の顔を見て、久美子は驚いた。先ほどとは打って変わって力のこもった瞳で少年は久美子を見つめている。きらきらと輝いてひどく大切なものを見つけたかの様に揺らめいている。柄にもなく、久美子はどきりとした。


「取り敢えず、お前の呼び名はシンだ。いいか?」


動揺を隠すように咳払いをひとつすると、久美子は断定的な口調で少年に言った。すると今まで何を言っても無反応だったのに、少年はにっこりと笑うと


「ああ、それでいい。」


と言った。そのあまりの笑顔の美しさにそこに居る全員が見蕩れてしまった。見違えるように生き生きと表情をたたえはじめた少年は、ミノルが差し出した有り合わせの服を綺麗に着こなすと立ち上がった。


そこで始めて一同は、少年の背がかなり高く、どうやら十代後半くらいの年齢らしいことに気が付いた。裸で眠っていた時にはもう少し幼く見えたのだ。