→久美で、卒業後、赤銅学院に教育実習に来た竜君。THE MOVIEの設定です。



趣味の問題 〜竜編〜



広々と開けた河原が夕日に照らされている。

生い茂った草がざあっと風になぶられていく。


「あー気持ちいい・・・」


「そうだな」


「やっぱ、青春は缶蹴りだなー」


「・・・」


赤銅学院高校の教育実習生、小田切竜はいま、担当である山口久美子と肩を並べて土手を歩いていた。久美子は竜の高校時代の担任で、出身校が廃校となってしまった竜は、大学へ頼み込んで久美子の元へと教育実習にやってきた。それなのに何故、汗塗れの身体を川風に干しているのか。


発端は些細な事だった。朝、竜と共に三年D組の教室に現れた山口久美子がこう告げたのだ。


「これから小テストをやりまーす。赤点の子は、補習授業を受けてもらうからねー」


もちろん、教室からはブーイングの嵐だ。


「はぁ?ヤンクミふざけんな」「俺らに数学の問題なんて解けるわけないだろ!」「そうだそうだー」「俺カッコ付きの式でつまづいてっからなー」「俺なんか七の段だ」


「お、お前らーっ!」


久美子が真っ赤になって怒るが効果はない。


「あー君達」


突然、校長の声が聞こえて教室が静まり返る。


「君達は、このテストに合格しないと、卒業できない」


「「「「「ええっ!」」」」」


「つまり、君達はあまりの成績の悪さに本来履修すべき単位が足りず、よって卒業要件を満たしていない。わざわざ退学にせずともよいわけだ。我が校は留年を認めておらんからな。ま、学生の本分たる勉学を疎かにするクズどもなど、我が校には必要ない」


「おい、猿。お前ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ」


「おや、小田切君。君は我が校に実習に来ている身だと言うことを時々忘れるようだな。き・み・の評価は私のさじ加減ひとつだと言うことをよーっく心に留めておくことだな」


猿渡はしばらくの間、竜と睨み合っていたが、根負けしたと見えて眼を逸らした。


「全員が六十点以上。条件はそれでいいな」


「おい、小田切。なに安請け合いしてるんだ」


「俺にやらせろ、山口。こいつら見捨てられっかよ」


「ようし、いいだろう。お前のそのバカさ加減に免じて合格点を三十点にまけてやる。ついでに今日の午前中一杯、対策授業をやらせてやろう。五時間目がテスト、六時間目が採点だ」


「上等だ。首洗って待っとけ」


猿渡が出て行ったあと、久美子は慌てて竜に聞く。


「おい、あんなこと言って。こっちは何の準備もしてないんだぞ。それに教室はこの有様だし」


「俺に任せとけ」


竜は生徒達を掻き分けて教室の一番後ろまで行くと、そこに座っていた高杉怜太に何やら耳打ちした。怜太は頷くと望月に声をかけ、また何事かを話す。望月はまたそれを回し、囁きがまるでさざ波のように教室内を満たしていった。そして生徒達は吾から机を直し、きちんと着席をしてノートを筆記用具を出した。


「ど、どうしたんだ。まるで高校の教室みたいだ・・・」


思わず久美子が呟くと、


「はじめから高校の教室だろ」


すかさず竜からツッコミが入った。どんな魔法を使ったのかは定かではないが、とにかく竜の特別授業を受けた生徒達は平均点六十二点と言う快挙を成し遂げ、猿渡にほぞを噛ませたのだった。



となれば、3年D組恒例のあれしかないわけで。


「お前らー。青春の缶蹴りだー!」


「「「「「おーーーーっ!!!」」」」」


と言うわけで缶蹴りも済んで、みんなで赤銅へ戻る道すがら。


「なあ、小田切。お前、なんだってあんな無茶、引き受けたんだ?」


「別に。猿の野郎が気に喰わなかっただけだ」


「ふぅん、そっか。でも助かったよ、ありがとう」


特上の笑顔で言われて、竜の苦心はすべて報われた。


「あ、ところでさ。お前の趣味ってなんなんだ?」


「趣味?」


「そう。先生達、お前と一緒に合コンしたいって。なんかお前のこと色々聞いてきてくれって頼まれちゃった」


「お前も来るのか?」


「あたし?もちろんっ。夏目先生が来るから!あ、夏目先生ってのはな」


俺の趣味は山口久美子だな、そう呟いた声は、夏目のことを夢中で語る久美子の耳には届かなかった。



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黒慎編の続きでなくてすみません;

そちらはまたいずれ。隼人ばっかりずるいじゃないか、って声が聞こえてきそうなので竜の分も。何気に小田切君、好きなんです。


ご拝読ありがとうございました。

ブログに載せていたものを再掲。


2012.4.22

双極子拝