原作・卒業後、お付き合い前。



趣味の問題 〜赤慎編〜



「あーっ、くったびれたぁー。おい、慎公。お前の飲んでるのなんだそれ。アイスコーヒーか。よし、ちょっと寄越せ」


約束に時間に三十分も遅れて現れた山口久美子は、汗だくの身体をどさりと慎の向かいの椅子に投げ出すや否や慎の頼んだドリンクをあっという間に飲み干して、ぷはーっ息を吐いた。そのあまりの遠慮のなさに、いっそ慎はおかしくなってしまって、そっと微笑んだ。


ここはふたりが待ち合わせによく使う駅前の小洒落た喫茶店だ。本当は話があって呼び出したのだが、本題に入る前に落ち着かせた方がいいだろうと判断して、慎は久美子に水を向けた。


「お前にしちゃ手間取ったな」


「おう、最近な。奇数連合ってのが学内に出来てさ」


「奇数連合?」


「ああ。学年を跨いで二組と四組が協力し合って一組と三組に対抗するって組織だ」


「二組と四組・・・?」


久美子がアイスコーヒーの残りをじゅじゅっと吸い込む。


「二組と四組だ」


「奇数、って言ったよな?」


「わかってる、わかってるよ。でもな、白金なんだ。あとは察しろ」


「お前の職業、全否定されてねぇかそれ」


「それを言ってくれるな、慎の字。んでな、その奇数連合を束ねてんのがさ、」


困った困ったと言いながら、久美子は楽しそうに嬉しそうに生徒達のことを語る。生き生きとしたその姿を正面から見るのも自分だけの特権な気がして慎は好きだった。久美子が一人で話している間に、慎の方は飲み物の追加や久美子の好物を頼んだりして、あっという間に時間が過ぎていった。


飲んで話して食べて、久美子が一段落したのは一時間半ほどたってからだった。


「そう言えばお前、何の用だったんだ?」


ようやくに自分が呼び出されたことを思い出したらしい。


「ああ、これを渡そうと思って」


どさりと音を立てて久美子に手渡されたのは大きなチューリップの花束。ピンク、レッド、パープルと、色とりどりの大きな花束だ。今まで慎の隣の座席に置かれていたのだが久美子は気付きもしなかった。が、こうしてテーブルの上に出されてしまえば、人々の耳目を集めるに充分な存在感な訳で。久美子はたちまち茹で蛸のように真っ赤になった。


「お、おまっ・・・これ・・・こっ、こっ、」


「誕生日おめでとう。久美子」


整った顔がぐいっと近付いてきて、透き通った瞳に吸い込まれそうだ。手にはいかにも高級店で買ったらしい小さく細長い箱が握られている。顎にかかっているのは慎の人差し指だけのはずなのに、どうしても逃げ出せない。せめてもの抵抗と、減らず口を並べてみる。


「おまっ、また、こ、こ、こんなことにばっか、金かけやがって!いい若いもんのくせに、ほ、ほかになんか趣味はないのか!」


慎の目がすいっと細められて、より一層顔が近くなる。


「俺の趣味は山口久美子だから」


真顔でそう告げられて、遂に久美子は限界に達した。


「ば、ばっきゃろーーーーーーーっ!!!」


花束どころか、鞄も上着すら放り出してかけさっていった久美子をのんびり追いかけながら、慎は春の宵のおぼろ月が登ってくるのを、どことなく浮ついた気分で眺めていた。春が、来ているのだ。




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久美子さん、お誕生日おめでとうございます


お世話になっている投稿サイト「新月の極」様にフリーリクエストルームと言うのがございまして、そこで見たお題で書かせて頂きました。れもんが様、お題ありがとうございました。また、花束のシーンは萌友・尚様のお誕生日絵からイメージをお借りました。ありがとうございました。


そして、すいません。

書いている途中で(遅いw)気が付いたのですが、ごくせん2008の喫茶店シーン、まんまでしたorz慎ちゃんに「趣味は山口久美子」と言わせたかったんです。なんかもうほんと、すみませんでした・・・

ブログにアップしていたものを再掲しました。


2012.4.22

双極子拝