※原作・卒業後でお付き合い中。
二月十四日
俺と山口が付き合い始めてそろそろ三ヶ月になろうかと言うある日のことだ。
俺の部屋でコーヒーを飲んでいるとき、壁のカレンダーを見ながら山口が嬉しそうに言ったのだ。
「今月の十四日は、特別な日だな・・・」
十四日?何かあったかなと思いつつ、カレンダーの二と言う数字を見て気が付いた。そうか、付き合って最初のバレンタインデーか。俺とのバレンタインを特別だと思ってくれている山口が愛しい。
後ろからそっと近付いて、そのまま腕の中に入れる。山口がもたれ掛かって来て、寛いでくれているのが判るから、嬉しくなって更に密着した。
小さな身体なのに俺より温かいのはなぜだろう。
そんな事を思っていると、山口が言った。
「十四日、うちに来てくれないか?」
「お前のうちに?」
「そう。お前の分、用意しとくからさ」
耳まで真っ赤になって照れているから、快く承諾して俺は楽しみに待つ事にした。細かい予定は知らされていないが気にも止めなかった。サプライズって言うのは素知らぬ顔で待つもんだ。
そして迎えた十四日。
今年のバレンタインデーは折よく日曜日だ。言われた通り、朝のうちに山口の家に着く。
屋敷内がざわついている。そう言えば、神山商店街のあたりもなんだか賑わっていた。バレンタインセールの所為だろうか。
「ちわー。山口いますか?」
「あ、慎さん。そっかぁ今日は慎さんが主役っすよね」
丁度事務所にいたてつさんが快く迎えてくれる。
「慎さんいらっしゃい。お嬢ー、慎さんがいらっしゃいやしたよー」
いそいそと奥に声をかけてくれるミノルさんも、なんだか嬉しそうだ。向こうからぱたぱたと足音が聞こえて、山口が顔を出した。
「あ、沢田。待ってたんだ。こっちだこっち。上がってこい」
満面の笑顔で山口が迎えてくれて、俺はちょっと照れくさかった。恋人の家でこんなにも歓待されると言うことが、嬉しくないはずがない。
「ん、サンキュ」
わざと素っ気ない態を装いながら山口の後について年期の入った屋敷を歩く。俺を先導して廊下を行く山口の足も弾んでいて、しみじみ喜びを噛みしめる。
座敷に通されてここで待っていろと言う。庭の松の緑が陽に眩しくて、何の樹だろうか、赤い実が鈴生りになっている。
庭と反対側の襖ががらりと乱暴に開けられて、思わず振り向くと京さんがいた。
「おう、慎の字!よく来たな!さ、お前ぇの分はこれだ!」
差し出されたのは細く畳まれた帯のような布だ。いや、これは帯などではない。
「って、何コレ。俺の分て??」
「おう、お嬢自ら色と柄を選んで今日ってぇ日のために特注したんだぜ。ほれ、さっさと絞めろ」
「???」
頭は疑問符で一杯だが、京さんによると山口が大層楽しみにしているらしいから、大人しく渡されたもの、緋色に唐獅子牡丹の褌を身につける。
「京さーん、沢田の支度終わったー?」
「へい、お嬢。いい男っぷりですぜ」
「へぇ、どれどれ・・・(うっとり)」
「さあさあ、早く服を着ろぃ」
「え?この上から?おい、山口!」
「(うっとり)(うっとり)(うっとり)」
「時間に遅れるぜぃ。ほら早く」
「山口!どう言うことだよ、コレ」
「(うっとり)(うっとり)(うっとり)(うっとり)」
「お嬢が動けねぇから早く下を履きゃあがれ、ほら」
「ん、ああ・・・ったく」
「(うっとり)・・・あ、支度できたな。よしよし。行くぞ」
「へ?行くってどこに」
「決まってるだろう、コンテスト会場だ」
「え?えーっ?」
否も応もなく連れてこられたのは、神山多目的ホール内の特設会場だ。ファッションショーのような花道付きの舞台の周りにはたくさんの観客が待っている。
正面の壁には大きな看板が掲げてある。
『第一回・神山ふんどしの似合う男コンテスト』
「え?え?」
あたりを見回すと、てつさんもミノルさんも褌姿でスタンバイしている。その他にも大勢の男達が色とりどりのふんどしを身に着けてたむろしている。
「おい、山口っ!」
「ふふん驚いたか。今日は特別な日だって言ったろう?記念すべき第一回目の褌コンテストだぞ。すごいだろ。でも心配すんな!大丈夫、きっとお前が優勝だ」
うんうんと一人で納得している山口に、
「何でよりによって今日なんだよ・・・」
憮然として呟くと、山口が言った。
「二月十四日はふん(二)ど(十)し(四)の日だからな」
待て、普通はバレンタインだろ、と言う当然の主張を言う暇もなく、俺は京さんに拉致されて舞台袖へと引きずられていった。
「がんばれよー!沢田ー!」
無邪気な山口の声に、俺はどっと脱力したのだった。
-----
こんにちは〜
先日のお茶会で、尚様が教えて下さった「ふんどしの日」。
各地でショーやコンテストが開かれていると聞き、萌え変換です。
ふんどしと来たら我らが若大将、神山のレッド・プリンスが主役でなければいけませんよねw
お付き合いありがとうございました♪
2012.3.9
双極子拝