原作・お付き合い中。



俺の恋人は、とってもシャイ。

なんでもずけずけ言うし、傍若無人でおよそ遠慮なんて言葉とは縁のない女だけど。

でも、シャイなんだ。

それは俺だけが知っている甘い恋人の顔・・・



つかまえて



土曜日の午後六時。

今日はこれから出掛けなくてはならない。


バイト先の歓送迎会があるのだ。

大学に入って以来働き続けている本屋の店長が、配置換えで本社勤務になったとかで、そのお祝いと入れ替わりにやってくる新しい店長の顔見せも兼ねての飲み会なので、断るわけにはいかなかったのだ。


昨日の夜から泊まりで俺の部屋に遊びに来ている山口を置いて出掛けるのは忍びないが、これも付き合いってものだ。


その事を話したとき、山口はふーんと言ってちらとこちらを見ただけで、さして気に留めていないように見えた。


「ごめんな、せっかくの土曜なのに・・・」


「まあ、お前とはいつでも会えるし、付き合いの方が大切だろ。ゆっくりして来い。」


俺と過ごす時間が減ってしまった事に対する未練なんかひとつも感じさせない物言いに、ちょっとだけ拗ねた気持ちが顔を出す。


「ふーん・・・じゃ、お許しも出た事だしゆっくりして来る。」


「ん、そうしろ。お前はもうちょっと他の人間と付き合った方がいい。」


雑誌から目を上げもせず、淡々と言う山口の可愛くない言葉を並べる口がわずかに尖っているのを確認して俺は初めてほっとする。


付き合いはじめた頃は、こう言う大人びた山口の態度が寂しくて、拗ねたりまとわりついたりと、それこそガキ全開で甘えていた。そうなると山口の方も意地になって俺を突き放すから、そこからいつも喧嘩になった。


でも、何度も同じ事を繰り返すうち段々わかって来た。

年上なうえ、元担任と言う意識が捨てられない山口は、素直に俺に甘えられないのだ。


冷めたようにも見える大人びた態度は不安の裏返し。

外を向けと言う助言は、こっちに来て欲しいの裏返し。


やっぱりお前がいいと、俺のその一言を待ってるんだとわかったから。


「久美子・・・」


雑誌を読んでいるその小さな背中に、後ろからぎゅっと抱きついて、俺の重みを擦り込むようにもたれ掛かる。


「何だよ、重いだろ。」


鬱陶しそうに言うけれど、染まった耳が彼女の素直な気持ちを伝えてくれる。


「ね、俺が帰ってくるまで起きて待っててくれる?」


「ふん、先に寝ちまうよ。」


「待っててよ、風呂に入ってさ。」


「風呂に入って待ってたら、湯冷めしちまうから、やだね。」


「じゃ、風呂の後、ベッドで待っててくれればいいじゃん。」


耳朶を甘噛みしながらそう言うと、


「ばかっ!さっさと出掛けろ!遅れるぞ!!」


茹で蛸みたいに真っ赤になりながら叫び始めるので、何かが飛んで来ないうちに俺はさっさと立ち上がる。


「じゃ、風呂用意したら出掛けるから。」


「ふん・・・////」


くすくす笑いながら俺はざっと風呂を流すと、湯を張った。最近山口が凝っている温泉ハップを用意して、「男仁義の褌祭」と大書された山口お気に入りのバスタオルと専用のスェットを出すと、居間の山口に声をかけて家を出た。


俺が出掛けても、俺の部屋でマイペースで過ごし、冷蔵庫のもので簡単な夕食を作ったりDVDを思う存分見たりと、結構一人暮らしごっこを楽しんでいるらしい山口。


それでも、俺が帰る頃には温泉の元ですっかり上気した山口が、ベッドを温めてくれているだろうと容易に想像がつくから、俺は安心して出掛けられる。


「結婚生活ってこんな感じなのかな・・・」


ふと、月に呟いて。

長い影を踏みながら、俺は幸せな気分で歩み続けた。



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こんにちは!

ここまでお読み頂きましてありがとうございました。


中々いいタイトルを思い付いたなぁと張り切って書き始めたはいいものの、半分も書かずに挫折していたお話、ようやく形になりました。年上の彼女の葛藤をちゃーんとわかってあげないと、セ・シ・ボンゴロー先生に怒られちゃいますからね!


2011.3.9

双極子拝