02: 誘導放出(原作・在学中)
ゆうどう‐ほうしゅつ【誘導放出】(イウダウハウ‥)
〔理〕系がエネルギーの高い電子状態から低い状態へ遷移する際に、外部からの電磁波に共鳴し、その強さに比例して光が放出される現象。位相と波長のそろった光の増幅が可能となる。誘導放射。(広辞苑第五版)
始めは、変な女だなと思っただけだった。
「よー、慎の字。さがってな。」
妙に勘が良くて、時たま見せる鋭い視線には殺気が籠っているくせに、どこか抜けていて憎めない。誰もが避けて通る白金の不良達を相手にびびりもせず、普通に接してきて怒鳴っても嫌がらせをしても何でもないように接してくる。
華奢で小さい女だと思ったのに。
「テメー、極道なめるんじゃねぇ!」
その手が俺なんか足元にも及ばないほど強力な武器だと知ったのは、些細な事が切っ掛けだった。誰にも言わなかったのには特に意味なんかない。俺だけの秘密を持ったのが嬉しいと言うガキみたいな独占欲だったと思う。
誰にも言わずに脚を突っ込んで。あいつの正体を知った。
「嫌ってぇほど味わわせてやるよ。黒田流のケンカをよ!」
退屈だった高校生活に突然割り込んできたスリリングな世界に、俺は夢中になった。殴られ、拒絶され、突き放されても、その気持ちは覚めなかった。俺が惹かれたのが、秘密めいた極道の世界なんかじゃなく、山口本人だと気が付いたのはいつの事だったろうか。
手を差し伸べられる度、手を差し伸べる度、気持ちは積み重なって溜まっていく。
「よーこれってさー、普通は逆だよなー。男と女。」
それでも思いが溢れなかったのは、教師と生徒、極道と警察と言う二重の枷が壁となってせき止めていたからだ。この恋を、恋と自覚する遥か前から叶える術がないと思い込んでいた。いつでもそばに居て、少しでもあいつの役に立てればそれで満足していた。
「あたしの前でいっちょまえの男ぶるなんてよー。百年早いぜ!」
その通りだと自分でも思ったのに、ふんどし姿の俺を見た山口のうっとりした瞳に煽られる。また思いが溜まっていく。諦めなくてもいいんだと、あの瞳が言ってくれているようで。
そして俺は、自分の道を模索し始めた。
「何とか・・凌いでいてくれ。必ず・・・死んでも助けにくる!」
確かな信頼の証しを、お前がくれたから。俺に出来る事を考えて、俺の家とあいつの家と、どちらも納得させられるように。俺を阻むふたりの間の壁を取り去るべく、俺は一心に努力した。
卒業して生徒じゃなくなって。
極道弁護士と言う目的を見つけて。
あとはあいつに相応しい男になるだけ、と思っていたのに。
それまでは一杯に満たされた気持ちを抱えて行こうと思っていたのに。
山口の腕が、山口の涙が、その堰を切って落とす。
「今まで一度も言ってなかったけど・・・宇宙一、好きだ!」
溢れた気持ちはもう止まらない。
まっすぐに山口に向かって進んで行く。
それは光の速さで。
彼女に届く。
もう離さない。
だから、ずっとそばに居て。
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こんにちは!
久しぶりのお題更新です。
高校時代、昂る思いを抱えたまま出口を見つけられなかった慎ちゃんが、卒業後、久美子さんによって解放されると言うお話です。お楽しみ頂けたでしょうか。
題名は、簡単に言うとレーザーの原理だったりします。
自己満足のこんなお話におつきあい下さいましてありがとうございました。
引き続き、よろしくお願いいたします。
2010.6.20 ツキキワの拍手に掲載
2010.6.27 サイトにアップ
双極子拝