原作・卒業後、おつきあい中。



しばりたい



二月三月は、目が回る程忙しかった。


やっと終えた後期試験にほっと息をつく間もないまま、怒濤のように仕事が入って

毎日翻弄された。通常のバイトの他に、臨時のバイトを引き受けたせいだ。


短期で身入りもいいし、いい経験になるからと受けたのだったが

思っていたよりも仕事はきつく、精神的緊張を強いられてぐったりと疲れた。


で、まとまった金を手にしたはいいが、肝心の山口への誕生日祝いを用意する余裕がなかったのは痛かった。今までこんなことはなかったのに・・・


山口に正直に話して詫びると、


「お前も忙しかったからな!学生のうちは色々やってみるのも大事な事だ。

あたしの事は気にすんな!あたしらの仲じゃないか!」


と軽く言ってはくれたが、やはり寂しいには違いない。

そこでせめてご馳走でもしようと誕生日当日に待ち合わせて、

ちょっと豪華なランチと洒落込んだ。


「すっげぇ。こんなハイカラな食いもん、始めて食べるぞ!

あ、慎公、これは何だ?これも食えるのか?」


とちょっとムードは足りないものの、山口は大満足だったようで

追加のデザートまでぺろりと平らげて満足そうに笑う姿に、ほっとした。


「ごめんな、せっかくの誕生日なのにこんなんで・・・」


「なんでだ?すっごく楽しいぞっ!ありがとな、沢田!」


ボトルで張り込んだワインの酔いで、昼下がりだと言うのにほろ酔い加減で店を出た。

そのままぶらぶらと街を歩いて店を冷やかしたりする。


ふと、山口の視線がショーウィンドウに止まった。

一点をじっと見つめて無言で佇んでいる。

俺は山口の手を引いて店の中へと連れ込んだ。


「さ、どれがいい?」


にっこり笑って聞いてやると、山口は真っ赤になった。


「いや、あの、その。あたしがってわけじゃなくて。その。」


「何?」


「その、あれが・・・」


「あれ?」


「あのショーウィンドウのあれ、お前に似合いそうだなぁって////」


「・・・俺に?」


山口が指しているのは、ツヤツヤと滑らかな曲線を持つ銀色のバングルだ。

てっきり自分が欲しいのかと思っていたから、ちょっとびっくりしつつも

俺の好みをよく分かってくれている山口に感動した。


「おう。ちょっとはめてみろよ。・・・やっぱりぴったりだな。」


嬉しそうににこにこ笑う山口を見て、ふと思い付いた。

これ、山口にも似合いそうだ。

同じデザインで女性用があったから、それを取って山口の手首にはめてやる。


「わ////だめだよ。あたしなんか、こんな洒落のめしたもん、似合わねぇから////」


「そんなことないよ。よく似合ってる・・・」


////・・・気障やろう・・・////」


山口と俺と、ふたりの腕にはまっているお揃いのバングルを見て即座に決意した。

二つのバングルを腕から抜くと、そのまま山口を引きずってレジへと向かう。


「え?え?え?」


さっさと支払いを済ますと、状況を飲み込めなくてあたふたしている山口を促して店の外にでる。

ショッピングモールのベンチに座ると包みを開け、女性用のバングルを山口の腕にはめて、


「はい、誕生日のプレゼント。」


「沢田・・・」


「悪いな、こんな風に行き当たりばったりでさ。」


俺は自分用のバングルを腕に付けながら謝った。

山口の言う通り、中々似合う。もちろん、山口の方も・・・

はめたばかりの腕のバングルをじっと見ている山口は、なんだか難しい顔をして押し黙っている。

でも俯いた髪の間から見える耳が真っ赤だから、俺はほっとした。


「俺、お前とお揃いっての、すっげぇ嬉しい。だからそれ、使って欲しい。

・・・だめか?」


しばらく返事が聞こえなかったから、


「だ、駄目じゃない・・・」


小さな声で言ってくれて、本当に嬉しかった。


「似合うよ。」


「そうか?あたしがしてるとなんだかワッパみたいじゃないか?」


「ワッパ?」


「そう、ワッパだよ。サツの親父が居るくせに、ワッパも知らないのか?」


「・・・もしかして手錠の事?」


「そう、それそれ!」


せっかく買ってやったバングルなのに、言うに事欠いて手錠かよ。


でもそれもいいな・・・

ふたりの腕に光るバングルを見ながら、俺はその間に架かる鎖を思い浮かべた。


手錠のように。


二つの腕の輪をきつく結び合わせ絶対に途切れない、強靭な鎖で結ぶ。


いつもいつも追いかけてばかりの山口・・・

その後ろ姿を見失う事は、もう以前のようにある訳ではない。

しかし、いつ見失うかと、いつ掴んだ手を振りほどかれるかと、ずっとずっと俺は怯えている。


ふたりの絆で、雁字搦めの愛で、俺の情熱で。


しばりたい。

ずっと・・・


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久美子さんお誕生日おめでとうございます!


今度は原作版で書いてみました。

大慌てで書いたのでちょっと彼方此方おかしいですが、お目こぼしを・・・


お読みくださり、ありがとうございました!


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