ドラマ・卒業後、おつきあい中。ほんのちょっぴりピンク風味。苦手な方はお気をつけ下さい。



さわるな



「重い・・・」


慎は膝に頭を乗せて寝そべっている女に文句を言う。


「えへへ。」


午後の陽が燦々とあたる慎の部屋で、まるで自室にいるように寛いでいるのは慎の恋人、元担任の山口久美子だ。


ふたりは三ヶ月程前から付き合い始めた。

これと言った目的も見いだせずに、大学進学への意欲を失っていた慎を励まし、誰かのためになる力を付けるべきだと説いて、後押しをしてくれたのは久美子だ。


大学へ通い始めて様々なことを知るようになってから、慎は久美子の勧めが間違っていなかったことを日々実感していた。だから大げさに言えば、あの時、もう一度久美子によって

人生を取り戻せたのだと慎は感謝している。


巣立ったばかりの慎が心配だったのだろう、久美子は慎が大学へ通い始めてからも何かと面倒を見てくれた。通学のために新しく引っ越した部屋へも、家から近い事もあってしばしば通って手料理を振る舞ってくれたりした。


もちろん、八割の確率で「炭火焼風」メニューではあったのだが・・・


とにかく、そうしてふたりの時間を重ねていくうちに、久美子は次第に慎に惹かれていった。不安定な少年の顔が、日に日にベールを脱ぐように大人の顔へと変わっていく、その様子を目の当たりにして久美子は感動した。それは担任教師として生徒の成長を喜ぶだけではない、もっとずっと心の深いところから来るものだった。


慎は高校時代から久美子へ抱いていた恋心を、卒業してからはもう隠そうとはしなかったし、もともとウマが合ってなにかと一緒にいたふたりだから、付き合い始めるのにそう手間はかからなかった。


用もないのに慎を呼び出したりやきもちを焼いたりしている久美子を見て慎が交際を申し込み、晴れてふたりは恋人同士になったと言う訳だ。


付き合う前も慎の部屋に入り浸っていたし、もともと気の置けない仲だったのだから、今となっては、部屋へ来るたびに久美子はすっかり寛いだ様子だ。無防備にごろんと横になり、慎に甘えかかって膝枕をしたり背中に抱きついたりしてご満悦だ。


「ん・・・」


膝の上の頭を持ち上げて、久美子が唇を寄せてくる。

久美子の首の下に手を入れて身体ごと持ち上げながら、慎は久美子に口付けた。ちゅっと音を立てて表面が触れるだけのバードキスと言うヤツだ。


久美子はこれが好きで、しばしば求められる。


「沢田・・・あたしのこと、好きか?」


「ああ、好きだよ。」


「沢田・・・もう一度。」


「ん・・・」


乞われるままに、唇に触れる。

柔らかい感触は慎の官能を直撃して、堪らない気分にさせる。


それでも、恋人同士の営みとしてはまだ入り口のこのバードキスが大好きで、キスとはこう言うものだと思っているらしい久美子にこの先を求めるのはまだ早い気がして、慎は自分に歯止めをかけていた。フレンチキスさえ受け入れて貰えるかどうかおぼつかないのに、身体を繋げるのなど夢のまた夢だ。


慎に取っては拷問にも似た啄むようなキスが終わると、抱き起こされたついでに、今度は久美子は慎の膝の上に座ってしまった。あぐらの上に横を向いてちょこんと座り、慎の首に両手を回して胸にもたれ掛かってくる。そのままうっとりと眼を瞑る。


髪の香りがふわりと鼻に来て、慎はくらくらした。ちょうど上から覗き込むかたちになって、襟元から白い肌が見える。細身の身体にくっきり浮き出た鎖骨と、その下に続くなめらかなふくらみ・・・


これはヤバいだろ。


慎はどうやって久美子を傷つけずに引き離すか考えあぐねていた。

じっと耐えていたら、


「沢田の身体って、気持ちいい・・・」


ふいに久美子が呟いた。


・・・まいった。


慎の理性は今にも崩れ落ちそうだ。無防備に信頼し切って身体を預ける久美子を裏切るまいと必死で頭を冷やし、落ち着こうと足掻く。


堪んねぇ。

何の拷問だよ。


「沢田・・・ぎゅうってして・・・」


言いながら久美子が慎の頬に擦り寄ってくる。鼻腔をくすぐる官能的な香りがますます強くなって、慎はぐっと下半身に力を入れる。


ああ、もう。

頼むから、さわるな・・・



-----

こんにちは、双極子です。


同じタイトルですが今度はドラマ版です。

無邪気な久美子さんと邪な思いを出せずに悶々とする若さを持て余す慎ちゃんです。

少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。


2010.3.29 ツキキワの自由投稿ルームにアップ

2010.6.6 UP