ドラマ・卒業後、おつきあい前。オリキャラ出ます。


夜風にほんのりと花の香が漂う。

「うっちー・・大丈夫か?」

「う・・・クロはどうした・・?」

「わかんねぇ・・・見あたらねぇ・・・」

「うぐ・・ごほっ・・」

うっちーが激しく咳き込んだ。

生臭い血のにおいで噎せ返るようなのに

花の香りを感じるのが滑稽だった。



桜舞う



卒業式も終えて、三月ももうおしまいと言う頃だった。

四月が来たら会社勤めが始まるうっちーの、学生最後のばか騒ぎをしようってことで、

久々にクロと俺と三人で集まった。飲んで喋って笑い合って、思う存分遊び回った。


夜も遅くなって、俺のうちで飲みなおそうと言うことで、

買い物のためにご機嫌で商店街を歩いていた俺たちは、

高校生ぐらいの少年がカツアゲされているのに気が付いた。


見ると白金の後輩だったから、胸ぐらを掴んでいるチンピラの襟首を捕まえて引きはがし

悪態をついて飛びかかってくるのを三人で軽くあしらって、ぺこぺこする後輩に軽く片手を上げて

答えると、つまみを仕入れるためにコンビニに入る。


そのときは気にも止めなかったのだが、チンピラの仲間の一人にクロの顔を知っている奴が

いたらしい。

覚えてろよ、の捨て台詞とともに走り去ったそいつらの事など、すっかり忘れて

笑い合いながら俺の部屋へと向かっていると、クロの携帯が鳴った。


「・・・んだとぅ!てめぇ、誰だ?」


低い声で話していたクロが、突然怒鳴ったと思うと持っていたコンビニの袋を

俺に押し付けてぱっと駆け出した。


うっちーと俺は一瞬顔を見合わせたが、すぐに異常を悟ってクロの後を追いかける。


「おいっ、急にどうしたんだよ!」


「何があったんだ?」


追いついて並んで走りながら口々にクロに聞く。


「あいつら・・・春香を・・・ 春香を・・・」


息を切らせながら途切れ途切れにクロが言う。


「春香ちゃんて、あの春香ちゃん?この前紹介してくれたお前の彼女の?」


「ああ・・」


「春香さんがどうした?」


「あいつらって誰?」


「さっきの奴らだ。さっきのカツアゲの・・・」


「!もしかして連れて行かれたのか?」


「白金運動公園に、すぐ来いって・・・お前ら、もういいから帰れ!」


「そうはいくかよ!」


「俺ら断っても一緒に行くぜ!」


「・・・勝手にしろ・・・」


「へへっ。」


走りながら聞いた所によると、クロの彼女をさらったのは、

クロのチームと敵対しているグループの連中だと言う。

先ほどカツアゲしていたチンピラは、そのグループの一人で、

俺たちに邪魔をされたのに腹を立ててクロに仕返しすることにしたらしい。


「そいつら・・・どこで春香さんの事を知ったんだろう?」


「春香はもともとそのチンピラどものリーダーに言いよられて困っていたんだ。

そこをたまたま通りかかった俺が助けたってわけ。」


「ひょ〜♪クロちゃんかっこいーい。」


「それで恨まれてるって訳だ。」


「ま、その他にも色々あんだけどな。」


白金運動公園は、桜が満開だった。

ぽつんぽつんと青白く光る街灯に照らされて、夜の闇に霞のように浮かんで見える。


「おい!来てやったぞ!!」


クロが大声で叫ぶと、植え込みの陰からぞろぞろと男達が出てきた。

一人が猿ぐつわを嵌められた女性を盾にして立っている。


「へぇ、よく来たな。コイツは大事な女って訳だ。」


「貴様・・・春香を放せ!!」


「ま、お前の心掛け次第だな。」


男達が下卑た声でどっと笑った。


「くっ・・・」


クロが拳を握りしめて飛びかかりそうになるのを抑えて、俺は前に出た。

いたずらに飛びかかっても多勢に無勢、一方的にボコられておしまいだ。

クロの彼女、春香さんは後ろ手に縛られているらしい。なんとか助けないと・・・


考えを巡らせているうちに、クロが切れた。

男達の一人が、春香さんの胸を掴んだのだ。

猿ぐつわを通してくぐもった悲鳴が聞こえる。


「てぇめえええ!その汚い手を離しやがれぇ!!」


止める間もなく一番手前にいた男を張り倒していた。

もう一人にクロが殴られるのを見て、うっちーも飛び出していく。

俺はなんとかこの隙に春香さんのところへ行こうと、邪魔する奴を殴りつける。


たちまち大混戦になった。

しかし、春香さんと言う人質を取られている以上、俺達の動きには限界がある。

しばらくするうちに俺たちはいいように殴られて、あたりに血の匂いが漂うことになった。


「んんーっ!んーんーっ!!」


俺達が戦闘不能になったことを確認すると、男達は春香さんをいたぶり始めた。

服を捲れだの順番を決めろだの、わいわい騒ぐ声が聞こえる。

その意味が頭に入って、俺は怒りで身体が沸騰しそうになった。


「うぉおおおお!」


眼が腫れているせいで狭まった視界の外側で、クロの怒号が聞こえたが、

どさりと音がしたと思うと後は静かになった。どうやら殴られて気絶したらしい。


「くそっ・・・」


身体が重い。

痛みで気が遠くなりそうだ。

起きなければ・・・


今にも襲われそうになっている春香さんを見ながらなす術もなく絶望しかけたとき、

凛とした声が響き渡った。


「貴様ら!なに非道なことやってやがんだ!」


突如として起こった女性の声に、男達は動きを止めてそちらを見た。

よく知った声に、俺は驚くと同時に安心した。


「か弱いお嬢さん相手に、大の男が寄ってたかって乱暴狼藉。

お天道様が許しても、この山口久美子様が許さないぜ!!」


威勢のいい啖呵を切ったのが、細身の女性であることに気が付いて、男達が失笑した。


「だーっはっはっは。おねぇちゃんはすっこんでろ!」


「それとも、お前ぇも一緒に可愛がってやろうかー!」


「おおかた男日照りだろうから、すげぇ悦ぶぜぇ。」


「よせやい、こんなぺったんこじゃあ勃つもんも勃たねぇぜ。はっはっはっ。」


「違ぇねぇ!だははははっ!」


嘲笑う男達を静かに見ていた女性、ヤンクミは、すいっと一人に近づくと

流れるような優雅な動作で鳩尾に拳を叩き込んだ。そのまま男は昏倒する。


「おいっ。」


何が起きたかまだ理解出来ない男達が、不用意に近づく。

またふわりとヤンクミが動くと、今度はふたりがどさりと気を失った。


夜風にさらわれて、桜の花びらがざぁっと舞い上がる。


「てめぇ・・何もんだ・・・」


「あたし?あたしはなぁ。」


言いかけてさっと身体を引きざま、左の男の首筋に手刀を入れる。

思わず動きが止まった男達をじろりと睨んで、


「お前らが殴り倒した奴らの、担任の先生だよ。」


言い切ると、くるりと身体を返して右の男に裏拳を叩き込む。


「何ーっ!」


色めき立つ男達をすっと上げた手で制して、


「ん?もう卒業したんだから、元担任か?」


首を捻るところを、業を煮やした男が殴り掛かる。


「何ぶつぶつ言ってやがる!」


「やっちまえ!」


「ヤンクミ!」


しかし、俺などが声をかけるまでもなく、とっくに気が付いていたヤンクミは、

ひらりと躱して足払いを掛けると、倒れ込む脾腹に固く握った拳を入れる。


「う・・・っ!」


一斉に飛びかかってきた男達の間を、ひらり、ひらり、ヤンクミが舞う。

的確な打撃で一人ずつ倒していきながら、ゆっくりと前進していく。


解かれた黒髪が風に踊る。

吹き散らされた桜の花びらが舞う中で、水銀灯の白い灯りに照らされて、

ほのかな闇に白いジャージが舞踊る。


居並ぶ男達がすべて殴り倒されるまでそう時間はかからなかった。

地面に転がる男達の中心に、すらりと立つヤンクミは、

夜桜舞う風の中、この世のものではないように、美しかった。


倒れていた春香さんを助け起こし、縄を解いてやるとほこりを払ってやる。


「大丈夫か?えらい目に会ったな。」


「・・・はい・・・ありがとうございます・・・あたしのせいで、皆が・・・」


「は・・・るか・・・だい・・じょ・・ぶか・・?」


弱々しいクロの声が聞こえて、どうやら無事だったらしいと安堵した。


「黒崎くん!」


ふたりがしっかりと抱き合うのを見届けるとヤンクミは振り向いた。


「沢田っ、内山っ!」


こちらに駆け寄ってきながら俺たちの名前を呼ぶ。


「サンキュ、助かったよ・・・」


「ヤンクミ・・・カッコいいじゃん・・・」


「俺からも礼を言う・・・」


泣きじゃくる春香さんを腕に抱いたクロも、ヤンクミに感謝の言葉を言った。

うっちーの腕を引いて抱き起こし、怪我がないか確かめていたヤンクミは、

やがて立ち上がって俺の横にしゃがみ込む。


情けないことに、俺は起き上がれなかった。

思ったよりも怪我がひどいらしい。


「大丈夫か、沢田。傷は浅いぞ、しっかりしろ。」


優しい声音で抱き起こされて、俺は緊張が一気に抜けていくのを感じていた。

甘酸っぱいヤンクミの体臭がふわりと鼻に来て、密やかなくせに柔らかい胸の温もりを感じて、

俺はかつてない程の安堵を覚えていた。


「ヤン・・クミ・・」


見上げる腕の中、ヤンクミの白い頬の向こうに夜空と夜桜、風に舞う桜吹雪。


ああ、綺麗だ・・・


俺はヤンクミの胸に顔を埋めると、意識を手放した。



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こんにちは!双極子です。

長くなってすみません(汗)


卒業した年、まだ片思い中の慎ちゃんです。

アフリカ?なにそれ美味しいの??となっております。


お付き合い頂きましてありがとうございました!


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