※原作・卒業後、おつきあい中。完結編その後。
ここから
「ったく、あいつらときたらっ!」
久美子は顔についた油性マジックの悪戯描きを鏡で見ながら毒づいた。
これは石鹸では落ちないだろう。
保健室へ行って消毒用アルコールを貰ってくるか・・・
ため息を付きつつ廊下を辿る。
こんなことされても気付かなかったなんて
今日一日、よっぽどぼんやりしてたに違いない。
しっかりしなくちゃなぁ。
なんとか汚れを落としてアルコールでひりつく顔を撫でながら
2−4の教室に戻る。
「おーい、沢田。待たせてすまなかったな。」
呼びかけつつ教室に入るが、返事がない。
一番後ろ、高校時代に定位置だった席に座っている慎はぴくりとも動かない。
おやと思って近くでよくよく見たら、
慎は椅子にもたれたまま気持ち良さそうに眠っていた。
それほど待たせた訳じゃないのにな。
久美子はくすりと笑ってあどけない寝顔を眺める。
離れなきゃ、別れなきゃ、と思ってはみても、
久美子にとって慎の手を離すのは想像以上に辛かった。
もう二度と恋はしない。
いや、出来ないだろう。
そう決意したのに。
しっかりと自分と向合い、 父親を説得し、そして迎えにきてくれた慎・・・
手を差し伸べられて、温かい腕の中に抱きとめられて、幸せで胸が一杯になった。
ああ、こいつが居なきゃ駄目なんだなぁとつくづく思い知ったのだ。
ずっとお前を追いかけてきた、と言われたけれど
あたしもお前を追いかけてたんだな。
久美子は慎の端正な横顔を見つめて、
改めて自分にとってこの男がどれほど大切なのかをつくづくと感じていた。
この席に座った慎に、久美子が声をかけたのがふたりの出会いだった。
今、あの日と同じ席に座る慎を眺めながら、
あの時よりもずっとずっと大切な男になっていった時の流れの不思議を
久美子は感じていた。
心の底から温かいものが湧いてきて、我知らずおのれの唇を近づけていた。
「沢田・・・あたしにも、お前がいればいい・・・」
小さく呟いて、顔をわずかに仰向けて気持ち良さそうに寝息を立てている慎の唇に
久美子はそっと唇を重ねた。
しばらくのあいだ温もりを堪能してそのまま知られないように離れるつもりだったのに、
ぱちりと開いた目にばっちり見つかってしまった。
「あっ////」
恥ずかしくて慌てて飛び退いたがちょっと遅くて、慎の腕に閉じ込められてしまう。
慎の瞳がいたずらっぽく輝いて
「情熱的だな。」
にやりと笑いながら抱きしめられた。
「あわわっ////」
一気に主導権を握られて、照れくさいやら悔しいやら。
それでも、口だけは悪態をつきながら温かい胸の中から抜け出そうともせず
慎の唇を受けて、やっぱり離れらんないな・・・なんて思いながら
久美子はうっとりとその身を預けていた。
ふたりの未来が、今、ここからはじまっていくのだ。
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こんにちは!
ツキキワ休止と言うことで、枯れ木も山のにぎわいってなもんで
拙い作品を投稿してみました。
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。
2010.3.20 自由投稿ルームに投稿
2010.6.1 UP