ドラマ・卒業後、お付き合い前。



じゃなくて



高校時代からの仲間達が、それぞれ盛り上がっているのを慎はぼんやりと見ていた。

合コンの人数合わせだと言うのになぜか元担任が混じっている、不思議な飲み会だが慎は楽しんでいた。


目の前にはその元担任・山口久美子がいて慎に向かってぐだぐだと管を巻いている。


内容は相も変わらずどこそこの王子様に惚れただの腫れただの振られただのの話だ。合間にちらちらと慎の方を見るのは、どうやら反応を伺っているかららしい。しかし、わずかに笑みを浮かべて久美子の恋の話を聞いている慎の感情は、久美子には読む事は出来なかった。


「はぁ・・・」


色鮮やかなトロピカルカクテルをずずずっと行儀悪く吸って、久美子はため息をつく。


その口元が可愛くて、慎はじっと見つめる。最近のお気に入りの口紅はどうやら薄い色のようで、濃い化粧が好きではないな慎には嬉しい眺めだ。


上目遣いに慎を見て久美子が聞く。


「なあ、沢田ぁ・・・」


「ん?」


「お前ってさ・・・どんな子がタイプ?」


「別に、好みなんてないよ。強いて言えば家庭的で大人の女かな。」


「お!それならひとり心当たりがあるぞ!」


「『あたしー』とか言わないだろうな。」


「・・・言わないもん。」


あたしだって家庭的な所あるんだからな、とぶつぶつ言っている久美子を満足そうに眺めて慎はグラスの酒を口に運ぶ。冷たくて熱い液体が喉を滑っていくのが心地よい。


「あ、もしかしたらお前!」


「何、急に。」


「好きな子・・・いるのか?」


「さぁね。」


慎はふぃと眼を逸らす。その仕草に何か秘密めいた企みが隠されているような気がして、久美子はじっと観察する。綺麗な横顔だな・・・しかし、やっぱり何を考えているかはわからない。


久美子は搦め手でいってみる事にした。


「沢田、お前・・・なんで彼女、作んないんだ?」


「・・・さぁな。自分で考えれば?」


「むぅ・・・」


むっつりと黙り込んでしまった久美子をおいて、慎は空になったグラスを手に立ち上がった。向こうのテーブルで水割りを作っている内山春彦の所へいく。


春彦がニヤニヤしながら慎の脇腹を突つく。


「慎ちゃーん、思わせぶり言っちゃってぇ。ヤンクミ考え込んじゃってるよ。」


「ふっ。ちっとは頭回るようになるんじゃないの。」


「もうこっちから言っちゃえば。あの様子じゃ自分の気持ちすら気が付かないよ、ヤンクミは。」


「超ど級のニブ女だからな。」


慎が久美子に惚れ込んでいるのは高校時代の親友たち皆が知っていたし、久美子の方も憎からず思っている、いや慎にべた惚れなのは態度から見え見えなのだ。


なのに久美子は一向に慎への気持ちに気付かず、慎も態度に出そうとはしないからふたりの仲は全く進展していないのだ。


「なあ、慎。慎はさ、なんでこっちから言わないの?慎がひとこと言えばメデタシメデタシじゃん。」


「ん?待ってるんだ。」


「何を?ヤンクミに告白させて優位に立とうとか?」


「じゃねぇよ。俺らの立場考えたら色々支障があるだろ。」


「ああ、まあ教え子だしねぇ。」


「あとあいつの家の問題もあるしな。」


「そっか・・・そうだよなぁ・・・慎の親父さんもそろそろ任期切れだろ?やっぱ不味いわな。」


「親父のことは関係ない。」


そこだけきっぱり否定して、慎はカランとグラスを揺する。

二人はしばらくの間、黙って酒を飲んでいた。


「覚悟がいるんだ。」


ぽつりと慎が漏らした。急に話が始まって春彦は一瞬きょとんとしたが、さっきの話の続きなのだとすぐに気付いた。


「だって、慎は覚悟なんて遠の昔に付いてんだろ。」


「俺はな。」


「じゃあ・・・」


春彦は向こうの席で難しい顔をして考え込んでいる久美子を顎で指して言う。


「そ。」


ため息をついた親友を見て、春彦は肩をがっちりと組んでやった。

そのままぽんぽんと慎の背中を励ますように叩く。


「慎も大変だねぇ。ま、草葉の陰で見守っててやるから頑張んな。」


「ばぁか、それじゃ死んでんだろ。」


「え?そうなの?」


肩を組んでゲラゲラ笑いながら、慎は久美子を眺めやる。


この関係が終わらないのはお前のせい。

そろそろ気付けよ。



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中の方々Stormさんの新しいアルバムの曲に触発されて書いてみました。

てか、まんまです(笑)


お付き合い頂きありがとございます。


2011.7.10

双極子拝