※ドラマ・卒業後、おつきあい前。
03:黒体輻射
こくたい‐ほうしゃ【黒体放射】(‥ハウ‥)
すべての波長の放射を完全に吸収すると仮想された物体(黒体)から放出される熱放射。黒体輻射。空洞放射。(広辞苑第五版より)
その黒い瞳は、いつも間近にあった。
とても自然に。
とても静かに。
だから気が付かなかった。
その瞳に籠った熱を。
その深い黒が放つ熱を。
それがあたしに与えるものを・・・
白金学院高校で初めて受け持った生徒を無事送り出して二年。
卒業生のひとりである沢田慎は、いつもあたしのそばに居た。
始めの一年こそ白金学院での仕事があったものの、次の年には白金は廃校、あたしは職を失った。沢田はと言えば、卒業してすぐに渡ったアフリカでのボランティアを三ヶ月程で早々に終わらせて、入学手続きをしてあったW大にあっさりと復学(?)した。
「俺が何をすべきか、もうわかったから。後はやるだけだ。」
なのだそうだ。
幸いなことに必修科目のほとんどは半期のみだったから、前期試験を全部すっ飛ばした沢田は、一年の後期ですべてを取り返してしまい二年の終わりには学年トップの成績で三年次に進級した。
アフリカから帰ってきたのは本当に突然だった。
あまりにも自然に現れたから、沢田がアフリカへ行っていた事など思い出さなかったくらいだ。ちょっとそこまで行ってきた、くらいの態度でうちのものへの土産物を差し出し、さも当然のような態度でうちの鍋に混ざり、風呂をよばれて飲み明かす。
そんな風にごく自然に生活に入り込んできたから、あたしのそばに沢田がいる事に何の疑問も持たなくて。沢田はどんな話も根気よく聞いてくれて、的確なアドバイスをくれる。だから、便利な奴だなぁって思ってた。
あたしが辛いとき、誰かに話を聞いて欲しいとき、沢田はいつの間にかそばにいて、あたしのお願いを聞いてくれる。選択に迷っている時には客観的な意見を、もう心が決まっているけれど決断出来ない時には後押しを、そしてただ慰めて欲しい時には温かい手を・・・
だから、段々と沢田の姿を無意識に捜すようになって。
すぐそばにないと不安になって。
理由もないまま、呼び出して。
あの黒い瞳を見ると、ほっとする。
温かい腕に、癒される。
「お前は、お前の侭でいいんだ。」
「うん・・・」
そして、ある日気が付いた。
あたしを見る黒い瞳が、熱をたたえている事に。
その熱が、あたしの胸にいつの間にか火をつけた事に。
「何赤くなってんの。」
ある日、沢田の胸の中で泣いていたとき。
からかわれたのかと顔を上げると。
優しい瞳が見返してた。
その瞳の中の温かい熱・・・
知らないうちに、あたしの中に溜まっていった熱。
目には見えないのに。
ゆっくりじわじわと、焙られて。
「ヤンクミ・・・んな男やめて、俺んとこ来いよ。」
囁くように言われた言葉に、もう抗えない・・・
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こんにちは!
ものすごーく久しぶりの拍手更新です。
このお話は、ワタシ考案の変なお題シリーズのひとつです。
お題に合わせて千文字前後でひとつずつ書いていきます。
なお、このお題は配布させて頂きますのでご自由にお使いください。
2010.10.3 ツキキワの拍手にアップ
2010.10.11 サイトにアップ