ドラマ・卒業後、おつきあい前



もう一度、お前と



大学へ入ってから疎遠になっていた高校時代の仲間と久しぶりに会った同窓会の日。

やってきた元担任に数年振りに再会した。


「お、慎っ!お前、久々だなぁ。あーい変わらず綺麗な顔しちゃってぇ。このこの。」


「ああ、顔出さなくてわりぃな。」


「そうよ〜、慎てば、つれないんだからぁ。」


「あ、ヤンクミが来たぞ。おーい!」


「お前ら!今日はお招きありがとう!

んー、みんな立派になっちゃってぇ。先生は嬉しいぞっ!」


仲間達は皆大人になり、それなりに変わっていたのに、彼女だけはちっとも変わってなかった。自分が大人になったからなのか高校時代に感じていた年齢の壁のようなものが綺麗になくなっていて、ヤンクミはひとりの女性に見えた。


その感じは共通のものらしく、皆ヤンクミに群がってすっかり打ち解けている。

わいわいと盛り上がって話は尽きず、二次会三次会とおおいに楽しんだ。夜中近く、とうとう行く場所がなくなって、皆で俺の部屋へ行くことになった。


残ったメンバーは一番仲の良かったうっちーとクマ、野田と南、そしてなぜかヤンクミだ。コンビニで酒とつまみを買い、並んで俺の部屋へ向かう。


高校時代にたまり場だった俺の部屋に、これまた溜まっていた仲間達が久々に勢揃いする。懐かしい顔ぶれの中に担任教師の顔まであって、俺たちは一気に高校気分に引き戻された。大人になって「教師と生徒」と言う垣根をとっぱらってみれば、ヤンクミは可愛くて一途なちょっとおっちょこちょいの愛すべき女性だと言う事を改めて実感する。


あのとき大人だと思っていたヤンクミが、実は意外に俺らに近かったんだと改めて認識して、俺たちはすっかりヤンクミを友達のひとりのように扱っていた。それをまたヤンクミが嬉しそうに受けていて、一晩中、皆で子供に戻ったようにじゃれあった。



「あーあ、あどけない寝顔しやがって・・・」


あちこちで雑魚寝を始めた旧友達に毛布をかけてやりながらヤンクミが眼を細めている。


「お前、ベッド使えよ。」


「えー。いいよいいよ、床で寝るから。」


「そうもいかねぇだろ。」


そっかぁ悪いななんて言いながらヤンクミは俺のベッドに横になる。


「沢田、お前どうするんだ?」


「こっちで寝るよ。」


「そっか。・・・なぁ、沢田・・・」


向こうへ行きかけた俺をヤンクミが呼び止めるので何事かと振り向いた。ヤンクミはベッドの上に半身を起こし俺を見つめている。


「どうした?」


戻ってベッドへ腰掛け、ヤンクミを覗き込む。


「あたしさ、ずっとお前に謝らなきゃって思ってたんだ。その・・・」


ヤンクミが下を向いて言い淀む。何の事だろうとしばらく考えるが思い当たる事はない。謝ると言うならむしろ俺たちの方がヤンクミに謝らなくちゃいけない事だらけだと思う。

そう言うと、


「それは先生として当たり前の事しただけだから!そうじゃなくて、お前、卒業式の後さ、あたしに、その、言ったじゃないか。」


言われてやっと思い出した。俺は卒業式が終わった後、ヤンクミに告白したんだった。

他にあった事のない鮮烈な印象を受けて、俺たちを救い出してくれた女に強く惹かれたからだった。


あっさり断られて、それっきり白金関係とは付き合わなくなったんだった。

後になって冷静に考えてみると、あの時の気持ちは「恋」と呼べるようなものじゃなかった。きっと卒業して担任を後輩達に取られるのが嫌で、俺たちだけのものにしておきたいと言う子供っぽい独占欲が主だったように思う。


だから断られた後は子供みたいに拗ねてすっぱり縁を切ったのだ。


「いや、俺もガキだったし、お前の立場も考えずに一方的に俺の気持ちを押し付けちまって悪かったよ。」


「沢田・・・ごめんな。お前の話ひとつも聞かずに断っちゃって。

あたし、あの時どうすればお前を傷つけずに済んだんだろうって、何度も考えてさ。

ずっと気になってたんだ。」


「もういいよ。」


「でも・・・」


必死になって言い募るヤンクミが可愛くて、俺はどきりとした。高校時代に感じていたのとは明らかに違う、女性としてのヤンクミの魅力を改めて実感する。


「じゃあさ、おわびに今度、付き合ってよ。」


「へ?付き合うって?////ええ〜っ!付き合うって男と女としてってこと?////」


一緒に出掛けないかと言う誘いのつもりだったのだが、見事に勘違いしてあたふたしているヤンクミを見て、いっそ誤解させたままの方がいいかもと思い始めた。変だよな、ついさっきまでそんな事、考えもしなかったのに。今は、ヤンクミと付き合いたくてたまらない自分がいる。


「ま、そんなもん。」


「〜〜〜〜っ!お前、手ぇ早くなったっ。」


「いいじゃん、お友達から始めましょなんてまだるっこしい事、しなくてもさ。」


瞳を覗き込んでにやっと笑ってやる。至近距離に近づいた俺の顔から飛び退いたヤンクミは真っ赤になって布団にもぐり込むと、頭の上まで毛布を引っ張り上げて隠れてしまう。


「もう寝る!おやすみっ。」


「はいはい。」


その頭を毛布の上からぽんぽんと叩いて、俺もおやすみを言う。


高校時代は単なる独占欲だったけど、大人になってもう一度出会った今は、この気持ちが恋だってはっきり言える。


だから、ヤンクミ。もう一度、俺のそばに来て。

もう一度お前と、同じ時を分かち合いたい。


そのために俺たちは再会したのだから。




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祝・ツキキワ再開!!


極月様、ツキキワ再開おめでとうございます

そしてツキキワ再開、ありがとうございます


素敵な作品の数々との再会を祝して、再会をテーマにお話を書いてみました。

このお話を極月様に捧げます。


一度離れてみて、盲目的だった気持ちが落ち着いてから考えてみてもやっぱり久美子さんに惹かれる慎ちゃん、しかしその気持ちはひとりの男としてちゃんと成熟したものになっていた、そんなお話を目指してみましたが、如何だったでしょうか。


皆様に少しでも楽しんで頂けることを願って、

またこの素晴らしいツキキワライフがずっとずっと続くよう祈って、

このお話をアップします。



2010.6.27 ツキキワの拍手にアップ

2010.8.16 サイトにアップ