※原作・卒業後、お付き合い中。慎ちゃんのお部屋でまったり中。
禁止令
「決めた!今日から一週間は会うの禁止だ!」
「はぁ?何言ってんの?」
いきなり言い出した久美子に、慎は呆れ返った。
全く、いつも唐突な奴だ・・・
だがこう言う場合は大抵が禄でもない事を考えていると経験上知っている慎は、思った事を声色にも顔にも出さずに久美子の次の言葉を待つ事にする。
「お前のためだっ!」
久美子は悲壮な顔をして、びしりと慎を指差す。
前後の脈絡が全く見えない。
確か、さっきまでクリスマスの話をしていたはずだ。そこから冬休みの話になって、その後、年内にある試験の話をした。あ、もしかして・・・
「俺の試験の事?」
まさかと思いつつもそう慎が聞くと、久美子は拳を握りしめてぶるぶる震えながら答える。
「夢を抱いて学問の道を進もうてぇ若いもんが、女で道を踏み外すなんざぁそれこそ掃いて捨てるほどよくある話、とくらぁ・・・ははっ、笑い話にもなりゃしねぇ・・・」
「はぁ・・・」
芝居がかった久美子の演説に、慎は頷くしか出来ない。
久美子はくるりと後ろを向くと、歯を食いしばって上を向いた。
どうやら涙がこぼれないようにするためらしい。
慎はそっと笑いを堪えた。
「だから、だからよぅ・・・好いた男のために、潔く身を引くってぇのが、女の花道ってもんよ。・・・あばよ、慎公・・・お前の事、あたしは片時も忘れはしねぇ・・・でも、お前は・・・お前は・・・」
久美子はそこでぐいっと涙を拭う。
「お前は、こんな女のことなんか忘れて、自分の道を進むんだっ!」
「おーい、山口ー?」
なんだかひとりでどんどんおかしな方向へ突っ走って行く久美子を引き戻そうと、わざとふざけた声をかけてみる慎だが、自分の言葉に完全に酔っている久美子には通用しない。
「止めてくれるな。可愛いお前を残していくのは忍びねぇが、これもお前のためなんだ。堪えてくれぃ。」
そう言いおくと、久美子はばっと身を翻し玄関へと走っていく。
「お、おい、山口?」
慌ててかけた慎の言葉に、久美子は一旦立ち止まり、背を向けたままで言う。
「あばよ・・・本当に、本当に・・・(ぐすっ)・・・好きだったぜ。」
「っておい。」
がちゃりと扉が閉まって、慎はひとり取り残された。
あーあ、出て行っちゃったよ。
てか、上着もバッグも全部置いてった事、気付いてるのかね。
バックの中にはお泊りの支度も入ってるし、財布も携帯も入ってる。
免許もカードも置きっぱなし。
いつ気が付くかな。気が付かないんだろうな。
しょうがない、迎えに行ってやろうか。
どんな顔するかな。
なんて言ってやろう。
くすくすと笑いながら、久美子の上着と自分の上着を持って慎は家を出た。
日差しはあたたかい。
晴れ渡った空の下、晩秋の風が黄色く色付いた葉を散らしていく。
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ご無沙汰しております。
試験があるとついうっかり漏らしてしまったために変な事に巻き込まれる慎ちゃんです。
久美子さん、なんか悪い(?)番組でも見たんでしょうかね。
萌友(めいゆうと読むんですよ?部首が違うなんて気のせいです!)K子様への陣中見舞いでした。十一月一杯はお持ち帰りフリーです。展示したいと言う奇特な方は一言お知らせ頂けると嬉しいです。
2010.11.15
双極子拝