ドラマ・卒業後、ドラマ2の数年後。



切なそうに、苦しそうに歪められた眉の下で

黒い大きな瞳が深い色をたたえて揺れている。

激しい吐息の向こうからざわめきが聞こえる。

抱きしめた肩越しに、星空が見えた。



ウージぬ森で プロローグ



なぜこんなことになっているのだろう。

久美子はもう何度目かもわからない疑問をまた頭に上せる。

目の前の男は、いや、自分の上にいる男は、なぜこんな事をしているのか。

そして自分は、なぜこんなことを許しているのか。

身持ちは固いと思っていた。

奥手だとも思っていた。

なのに、なぜ。

この数日の間、何度となく抱かれて、その度に同じ疑問を浮かべるのだけれど

いつも答えは出なかった。

自分の上で自分を翻弄している男も、何も言わなかった。

ただ、優しく、激しく、そうして少し切なそうに、自分を抱く。

そして、首に回された久美子の腕の強さに満足そうに微笑むのだ。


男は、久美子がまだ東京で働いていた頃に担任していたクラスの元生徒だ。

目立つ生徒で、なぜだか妙に気があって何かと言うとつるんでいた。

仲間思いで熱くて、もろくて喧嘩が強くて。

でも、自分に対して恋愛感情を持っているだなんて、思ったことはなかったのだ。

在学中、一度だってそんなそぶりを見せたことはなかった。

黒銀学院が閉校になった後、久美子はここ沖縄の地に職を得て

それ以来ずっとここで一人暮らしをしている。

離島であること、思ったよりも生活が楽ではないこと、生徒たちから目が離せないこと

などの理由で、東京へは一年に一度くらいしか帰ることが出来ない。

元の教え子や同僚たちとも次第に疎遠となり、訪ねてくる者もあまりなく

久美子はさみしい思いをしていたのだった。

そんな時に突然表れた男は、久美子が再会を驚く間もなくいきなり久美子を抱いたのだ。


男の動きが激しくなった。

「あ、ああ・・・あっ」

「久美子・・・イッて・・・俺と、一緒に・・・」

「ああーーっ・・・」

「・・・っ!・・」

久美子の上で荒い息を整えていた男は、満足したのか

やがてすぅすぅと寝息を立て始めた。

そっと身体の下から出て男の身体をずらし、夏掛けをかけてやると

久美子は寄り添うように自分もその下へと入った。

男の体温と鼓動が、たまらなく愛おしいのは寂しかったからだろうか。


開け放たれた窓の外からざわめきが聞こえてくる。

辺り一面のサトウキビが風に鳴る音だ。

重苦しいような締め付けられるような、久美子をそんな気分にさせる。

男の寝顔を見ながら物思いに耽っていた久美子は、これまでの記憶を甦らせていた。