※ドラマ・在学中、おつきあい前。ウージぬ森でのふたり。「冬風」の続編。
聖雪夜
「ふぅ・・・」
酔いに火照った身体に夜風がしみた。
今日はクリスマスイブ。
久美子が引き取られてきてから、大江戸では毎年この日にパーティをするのが恒例になっている。
久美子が大人になって教師として働くようになっても
その習慣は変わることなく続けられていた。
子供の頃のようにいかにもクリスマスと言う感じのご馳走を作ることはないが
それでもちょっと奮発した上等の鶏肉の鍋にとっておきの日本酒を開けて
皆で賑やかに飲み食いをする。
組の皆から久美子へプレゼントが渡され、久美子も龍一郎へは温かな肌着、
組の皆にもそれぞれマフラーや手袋など心づくしの品を用意して楽しく過ごすのだ。
今夜もテツが腕を振るった料理に舌鼓を打ち、真夜中近くまで楽しく過ごして
ようやく部屋へと引き上げてきたのだ。
夜風に当たろうと窓を開けた久美子は、ふぅっと息をついて外を眺めた。
「わぁ・・・」
いつの間にか静かに雪が降り始めていた。
ホワイトクリスマスだ。
雪は既にうっすらと積もり始めていて、しんしんと冷え込む夜の中、
街がほんのりと白く光っているように見える。
落ちてくる雪を飽きもせずに眺めていた久美子は、
ふと、すぐ前の道に佇んでいる人影に気が付いた。
それがよく知っている生徒の姿だとわかった久美子は驚いて
慌てて半纏を羽織ると裏口からそっと外に出た。
「沢田!こんな夜中に何やってるんだ!寒いだろっ。
急ぎの用か?何かマズいことでも起こったのか?」
「ヤンクミ・・・」
毛糸の帽子を目深に被り、コートのチャックを上まできっちり閉めた慎は
ポケットに手を突っ込んで寒そうに身をすくめている。
帽子の上にも雪が降り積もっているところを見ると、しばらく前から立っていたようだ。
「どうした?ん?」
切なそうな声色を聞いて、久美子は心配そうに覗き込む。
「別に何も・・・」
「そうなのか?でも・・・」
「ただ・・・」
「ただ?」
「なんだか会いたくなって・・・」
「そっか////寒いんだから声をかけてくれればいいのに。
今夜はご馳走だったんだぞ。もう少し早く来てくれたら一緒に喰えたのに!」
「来たの、さっきだから・・・
遅かったしお前の部屋の明かりが消えてたからもう寝たかと思って。」
「それにしても、こんな寒い中で。お前冷えきってるじゃないか。」
久美子は慎の頬に手を当てる。
「・・・お前の手も冷たいな。」
慎は頬に当てられたままの久美子の手を上から包み込んだ。
そのまま手を握りしめて両手を下に降ろし、今度は身体の前で手をつなぐ。
ふたりはしばらくそのままじっとしていた。
慎の大きな瞳が潤んでじっと久美子を見つめている。
久美子はそれが嬉しくて、時を惜しむように慎を見つめかえす。
綺麗な瞳・・・久美子の大好きな慎の瞳だ。
その瞳が段々近づいてきた。
それに気付いて久美子も顔を寄せ、わずかに仰向ける。
久美子が眼を瞑ると、その唇に慎の唇がそっと重ねられた。
雪に冷えていく頬と反対に唇は熱くなっていく。
夏以来、久しぶりに触れたはずなのに、いつも触れているかのようにしっくり馴染む。
その不思議な感覚に、久美子も慎もしばし時を忘れて夢中になった。
いつの間にか、腕は互いの身体を痛いくらいに巻き締めている。
熱い息を交換し、やっと唇が離れると、お互いに照れたように微笑み合った。
今頃になってドキドキして顔が火照ってきた。
照れ隠しに視線をわざと外した慎は、
ちらっと見た腕時計が零時少し過ぎを指しているのに気が付いた。
「ヤンクミ、メリークリスマス。」
「おぅ!沢田も!メリークリスマスだな!」
「来年もいい年になるといいな。」
「うんっ。来年も一緒に居るんだからいい年に決まってる!」
「そうだな。」
もう一度見つめ合ってにっこり笑う。
真っ白な雪景色に彩られた聖なる夜。
いつも寄り添っていたふたりが、また一歩近づいた夜になった。