※ドラマ・在学中、おつきあい前。「ウージぬ森で」のふたり、「秋空」の続編。
冬風
冷たい風が吹いていた。
よく晴れ渡った空のもと、木枯らしが吹き渡っていく。
仕事が終わったあと、慎とともに帰路についた久美子は
あまりの寒さに身をすくめた。
「ひゃーっ、寒いなぁ!
こんな時はなんかあったかいもんでも腹に入れられるといいんだけどなぁ!
あっ、いいもんがある!沢田っ、あれ買お!あれ!」
いつものように公園の中を横切っていると、久美子が何かを見つけて
ぐいぐいと慎を引っ張っていく。
「何、急に・・・?」
連れてこられたのはタイ焼きの屋台だった。
鉄板で焼かれてまだ湯気の立っている熱いタイ焼きが店先に並んでいい香りがする。
「あつあつのタイ焼きであったまるんだ!お前にも買ってやる!」
久美子は目を輝かせてタイ焼きを見つめている。
「・・・俺はいい。」
甘いものに、いや食べ物自体に興味のない慎は、素っ気なく答える。
「えーっ、一緒に食べようよ。一人じゃ食べにくいし。」
あからさまにがっかりしてしまった久美子を見てられなくて、慎は折れた。
「・・・ああ、わかったよ。」
この位で喜ぶ顔が見られるなら安いもんだ。
「よっし。あ、白タイ焼きなんてのがあるぞ!
へぇ、最近はいろんなもんがあるんだな!」
久美子はぱっと顔を輝かせて楽しそうにタイ焼きを選び始めた。
「どっちにするんだ?」
「どうしよっかなぁ・・・
白タイ焼きも試してみたいし、普通の奴も捨てがたいし・・・」
「じゃ、白いのにしてみれば?」
「うーん、冒険するのはちょっと怖いなぁ。外すかもしれないし。」
「じゃ、普通のにすれば?」
「でも白いのも気になるんだ!」
「二つ買えば?」
「ばか言え!そんな贅沢は許されないんだ!」
「・・・贅沢なのか?」
子供みてぇと思いつつ、律儀に悩む久美子を慎は微笑ましく思った。
「うーん、どっちにしようかなぁ・・・」
まだ悩んでいる久美子をよそに、慎は白と普通のと二つのタイ焼きを買うと
さっさと歩き出した。
「あ、待て、沢田。」
あわてて久美子が追いかけていくと
「ほら。」
慎は半分に割った白タイ焼きを差し出した。
続いて普通の奴も半分に割って久美子に渡す。
「半分ずつ?」
思っても見なかった久美子は喜んでにっこりと笑って受け取った。
「これならいいだろ。」
「うん!沢田、ありがとう!」
にこにこと嬉しそうに両手に持ったタイ焼きを交互に頬張っている久美子を見ながら
慎も満足そうに笑ってタイ焼きを口に入れた。
「あま・・・」
久美子が喜ぶ顔が見られて嬉しかったけれど、
緩む頬を誰にも見られないよう、わざと顔を歪めてみせる。
その瞳が楽しそうに揺れているのを知っている久美子は、
そんな慎をやっぱり嬉しそうに見ている。
木枯らしが樹々を揺らしていく。
透き通った空のもと、幸せそうに歩く男女の姿があった。