※ドラマ・卒業後。おつきあい中。セレンディピティシリーズ「時過ぎ行く」の続編。慎ちゃんは大江戸一家に居候中です。
ミステイク・トラブル
「あっ!沢田だ♪」
土曜日だと言うのに、教頭に休日出勤を押し付けられて
やっと解放された夕暮れ時。
疲れた身体を引きずってトボトボと繁華街に差し掛かったあたしは
人ごみの中に恋人の後ろ姿を発見してちょっと元気になった。
雑踏の中をゆったり歩いている沢田は、この前ふたりで出かけたときに
あたしが見繕ってやったSTORMSのジャケットを着ている。
あの特徴的なシルエットを見間違えるはずはない。
一風変わった色でぱっと見には黒に見えるんだけど、よーく見ると茶色がかった深い紫で
その静かな色味が沢田の瞳を思い出させて一目で気に入ってしまったのだ。
沢田に試着させてみたら、思った通りとてもよく似合ってて
うっとり眺めていたら沢田はそれを買うと言ってくれた。
ついでに同じ色で展開している女物のセーターも買って、それを私に渡してくれた。
「え・・・?」
「これ、お前が着てくれないか。」
「////」
一見それとはわからないがペアルックになる。
これ見よがしじゃないからあたしにも抵抗なく着られそうだ。
ちょっと憧れてたけど、自分の年齢もあって恥ずかしいから、こう言う気遣いがとっても嬉しいっ。
やっぱり沢田はいい男だ♪
と言う訳で、嬉しくなったあたしは夕暮れの道端でSTORMSのジャケットを着た沢田に駆け寄ってどんと背中に抱きついた。
「わっ!」
驚かせようとそんな声もかけちゃって。
せっかく会えたんだから、お茶でもしてそれから一緒に大江戸へ帰ろうっと。
そんなことを思って顔を覗き込んだら、
怪訝そうな顔で振り向いたのは全くの別人だった。
「あっ!す、すみません!!」
髪型も背格好もそっくりだったのでちっとも気が付かなかったけど、
その人は40代前半くらいの優しそうな人だった。
「あ、あの、その、す、すみません。」
思いっきりぶつかったせいなのか、その人は痛そうな顔をして腰をさすっている。
「あれ・・・もしかして山口先生・・・?」
「は?え?」
「ほら、僕ですよ。わかりませんか?毎度贔屓にして頂いて。」
「あ!もしかして学校のバス停前の!」
「そう。団子屋ですよ。」
「きゃー。全然わかりませんでした。どうも大変失礼なことを。」
「いえいえ。ちょっと吃驚しましたが。もしかして山口先生の大事な人と間違えたんですか?」
「あはは////いや、まあ、その////」
図星を指されて顔が熱くなる。
ヘドモドしながらぺこぺこ頭を下げて、そそくさとその場を離れる。
「あー、吃驚した。」
いつも白い上着に白い手ぬぐいだからあんな髪型してたなんて気が付かなかったよ。
それにあんなハイカラなジャケットを着るような人だなんてことも知らなかった。
まああんまり似合ってなかったけどな。
とにかく、恥ずかしい失敗をしてしまったけど誰に知られた訳でもないから
あたしは忘れる事にして家へと急いだのだった。
その晩、あたしの少し後に帰ってきたらしい沢田はなんだかすごく不機嫌だった。
皆と囲んだ夕飯の席でも言葉少なで、浮かない顔をして食も進まないようだった。
色々話しかけても生返事だから、あたしは体調が悪いのかと心配で、夕飯の後に部屋へ訪ねてみた。
「沢田、どうした?調子でも悪いのか?」
「いや。」
「本当か?」
「ああ。」
「じゃあ何か怒ってる?」
「別に。」
「お前、なんか機嫌悪い・・・」
「そう?」
「・・・・」
「今日さ、お前・・・帰り道、誰かに会った?」
聞かれてあの恥ずかしい失敗のことを思い出してドキッとした。
「だ、誰かって?」
ドギマギしたのをごまかそうと少し顔を背けて何気ない振りをする。
ちょっと声が上擦ってるな////
「知り合いとか。」
「ああ・・あの、まあ知り合いっていうか。」
「会ったのか?」
「知り合いってか、その。なんて言うか。まあ、あれだ。」
「あれって?」
沢田はやけに絡んでくる。
「なんでもいいじゃないか!」
「言えないような相手な訳?」
「違うっ・・・・団子屋さん!ほら、学校の前の!」
「笹一団子?」
「そう!あそこのみたらし団子、最高だよなー♪
あのタレの具合がもう堪んないよっ。
甘すぎず、辛すぎず、まったりしてコクがあって、」
「団子のことはいい。その団子屋の男と何してた訳?」
「何って・・・////」
「っ!なんで赤くなんの?」
「えっと、その・・・」
沢田と間違えて抱きついたなんて言えるもんか。
口籠ってたら沢田が飛びかかってきた。
そのまま押し倒されて乱暴に口を塞がれる。
「ん、んんーっ。」
同時に服の下に手が滑り込んできて、胸のふくらみを弄られる。
「あっ、あっ、いきなり何をす・・・んんっ、あーっ!」
いきなりだから吃驚したけど、段々感じてきちゃって、結局そのまま流されちゃった。
沢田の指に、唇に、思うさま声を上げさせられて、翻弄される。
素肌に感じる沢田の肌が愛おしくって、汗ばむ身体を抱きしめた。
「あ・・・沢田・・・さ、さわ・・・」
「慎て呼んで・・・」
「し・・ん・・・」
「久美子・・・っ!」
「あ・・・・あ・・・」
「・・・・ん・・・」
やがて、荒い息の沢田がぐったりともたれ掛かって、互いにしばし放心する。
奔流のような情熱がゆっくり引いて行った後の、たゆたうような安らぎの中にしばし微睡む。
「お前、あいつに笑ってた。」
ゆっくり髪の生え際を撫でながら沢田が囁くように言った。
「・・・あいつって?」
「夕方、商店街でお前が抱きついたの、見てた。」
「!!!み、見てたの?ひゃーっ、恥ずかしい////」
「どうしてあんなことになったんだ?」
「・・・言わないと駄目?」
「駄目。」
「どーしても?」
「どうしても。」
「・・・間違ったんだ。」
「え?」
「だーかーらー、ジャケットが同じだったからっ。」
「ジャケット?」
「ほら、あのSTORMSの。」
壁にかけてある沢田のジャケットを指しながら言う。
「あれを着てた?そいつが?」
「そう、後ろから見ててっきりお前だと思ったんだ。だから、そのう・・・」
「間違えて抱きついたってわけ。」
沢田はため息をついた。
「うん・・・面目ない。」
「あいつにここ触られた?」
胸のてっぺんをちょんと弾かれる。
「え////」
「ここもあいつが触った?」
うなじに唇が触れる。
「ここは?」
手のひらで腹を撫でられる。
「何言って////」
「俺以外の男に触られた。」
「さ、触られたって////」
沢田がぎゅっと抱きついてくる。
「俺のだ。」
「さ、沢田。」
「慎。」
「慎・・・」
「俺のだ。誰にも触らせない。」
顔を擦り付けるようにして切ない声で呟く沢田の肩が震えている。
愛おしくてその首をぎゅっと巻き絞めた。
柔らかい髪に頬擦りして口付ける。
「慎・・・」
「俺のだ・・・久美子・・・嫉妬でどうかなりそうだ。
お前の身体に他の男が触れたと思うと堪らない・・・」
「もしかして、今日不機嫌だったのって、それ?」
「・・・・」
「やきもち、焼いてたんだ。」
「・・・・ふん。」
沢田は赤くなってそっぽを向いてしまった。
あたしは、なんと言うかちょっと吃驚してた。
やきもちを焼かれるって言うのがなんか自分とはかけ離れたことみたいだったから。
あたしが焼くことはあっても焼かれることがあるなんて思いもしなかった。
沢田がそれだけ思ってくれてるってこと、改めて知って嬉しかった。
「慎・・・ 大好き・・・」
「久美子・・・」
「やきもち焼きだけど、好き。」
「////」
「ごめんな?」
「ん・・・」
ぎゅっと抱き合ってもう一度口付けあう。
沢田の不機嫌の理由があたしの恥ずかしい失敗のせいとわかってちょっとほっとした。
そして沢田が意外にやきもち焼きってこともわかった。
こんなこと思ったことなかったけど、些細な事でやきもちを焼く沢田は結構可愛い♪
女としての幸せをムフフと噛み締めて、あたしは沢田にもう一度ぎゅっと抱きついた。
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こんにちは!双極子です。
響子様、尚様との競作コラボ如何でしたでしょうか。
お二方と茶で盛り上がった「久美子さんの人違い」のお話、
同じ題材を3人で書いてみよう!と言う話になって書いたものです。
響子様が原作版SS、尚様が原作版漫画、私がドラマ版SSをそれぞれ書きました。
素敵な作者樣方に並べるのも気が引けるのですが、
それぞれの味を楽しんで頂ければ幸いです。
2010.1.21
双極子