原作・卒業後、お付き合い中。Love So Sweetシリーズ。「甘い日々」の続編。オリキャラが一杯出てきますのでご注意を。



甘い毎日



「よっし、これで終わりー!」「やったー。」


「あああああ・・・」「酒だ・・・酒にありつける・・・」


チャイムの音とともに教室のあちこちから悲喜こもごもの声が上がって、張りつめていた空気が一気に緩んだ。前期試験の最終日、最後の科目の時間が終わったのだ。


普段はポーカーフェイスを崩さない慎も、流石に頬を緩めて携帯の電源を入れる。

久美子の勤める白金学院は今日が終業式のはずだ。何か知らせて来ているんじゃないか、密かに期待しながら画面を見ると思った通り久美子からのメールが入っていた。


教室から出るのももどかしく、歩きながらメールに目を通すと、その顔がゆっくりと陰っていった。


「さーわだ♪その様子だと今夜は暇だな?」


「んだよナリ、いきなり抱きついてくんな。ちげぇよ。んなんじゃねぇし・・・」


「へ?俺は約束してない彼女からメールが届いたからっていそいそとメールを開けてみたら今夜は会えないわーって書いてあったからがっかりしたんだなーなんて、一言も言ってませんけどー?」


「うっせぇ////」


ナリこと成宮寛貴に図星を指されて慎は赤くなる。

久美子からのメールの内容はその通りだったからだ。

終業式後の打ち上げを校長自らがセッティングしたとかで、断れないよーと言って来ていた。飲み会が大好きな久美子だから断る気などなかった事は長年の付き合いだからよくわかる。仕事の付き合いだから当たり前だとは思うものの、やはりちょっと寂しい。


「おーおー、赤くなっちゃって、まぁ・・・泣く子も黙る東大のレッド・プリンスも可愛いとこあるんだねー。」


「・・・・っ!」


「おーい、沢田に成宮ー。今日は表参道に六時だぞー。」


同級生が廊下から覗き込んで声をかけてくる。大学で親しくなった友人達で、慎は大抵この四人と過ごしている。文系志望が多いからなのかノリは明るくて軽い。理系の鬼玉川などは勉強以外には一切興味ありませんと言う顔で、毎日図書館に通っていると言うのに。


「お、旬、いっしー。何、表参道って?駅前の『ハラ笑』じゃねぇの?」


寛貴が、旬と佑磨に向かって不思議そうに聞く。


「それがさぁ、いっしーってば大お手柄でさ。赤花女子大の女の子、五人集めたって言うのよ。んで、ちんけな居酒屋なんか行ってられっかってことで、表参道。」


「そ。俺の伯父貴がやってるカクテルバーがあってさ。安くしてくれるっていうからさー。ま、その後で皿洗いなんだけどさ。皆よろしくねん♪」


「「「なんだよ、そりゃ!」」」


「なぁ・・・そこって食えるもんあんの?」


今まで黙っていた同級生が口を挟む。

大きな腹を揺すって言うのは脇と言う男で、人生の第一目的は食べる事だ。なんでも美食を究めるために農学を学びたいんだそうで、研究予算で世界中の珍味を食べ歩くのが彼の夢だ。


「食いもんはあるに決まってんだろ。」


「言っとくけど、カナッペとかテリーヌとか、食いもんのうちに入んねぇからな。」


「「「いや、食いもんだろ!!」」」


わーわーと盛り上がっている四人に慎は不機嫌そうに声をかける。


「おい、俺は行くとは言ってないぞ。」


「へ?そうなの?」


皆一斉に寛貴を見る。

見つめられて寛貴は慎に抱きつくと、


「今夜は暇なんだよなー?彼女は飲み会に行っちゃったもんねぇ。し・ん・ちゃ・ん♪」


「おお、沢田クンも恋路は平坦じゃないのねぇ。ま、そうでなきゃ世の中不公平ってもんよ。」


「だな。じゃ、振られた慎を慰めてやるために、一同、いっくぞーっ!」


「「おうっ!」」


「うわっ、引っ張るなよっ!」


「やっぱ、先にメシ喰っとこうかなぁ・・・」






「では、乾杯!!」


「「「「「「かんぱーい!お疲れさまっしたー!」」」」」


「ふぅ・・・」


一気にジョッキの中身を八分ほど飲み干してしまった久美子を見て、同僚の静香が笑った。


「相変わらずいい飲みっぷりねぇ。いいわぁ、恋してるって。」


「な、な、関係ないじゃないですか////」


今夜は久美子の勤める白金学院高校の打ち上げだ。

終業式が終わってやっと一息付けると言う事もあって、先生達も事務員達も大いに食べ、そして飲んでいた。


「夏休みもまあ静かに終われそうですしねぇ。」


教頭がしみじみと言う。


「うちの学校から推薦入学の生徒が出た事が、今学期一番の喜びでしたねぇ。」


「これもひとえに、先生方のがんばりのお陰ですぞ。」


嬉しそうに焼酎のお湯割りを掲げながら校長が言う。

そこから皆、最近の学校の様子の話になり、推薦が取れるまでの経緯を振り返りはじめた。


「やっぱりねぇ、あれが切っ掛けですよね、あれが。」


「そう、あれですよね。」


「あれ?あれって何ですか?」


八木と江口の会話に久美子が口を挟む。


「ほら、山口先生の。」


「あたしの?」


「山口先生のクラスだった沢田ですよ。」


「へ?それが推薦と何の関係が?」


「やぁねぇ、ほほほ、山口先生ったら。沢田クンが東大に合格したからに決まってるじゃないのぉ。」


「でも沢田は東大に推薦で入った訳じゃないんですよ?」


まだ理解できていない久美子に、同僚達が説明をする。


「我が校の国立大学進学率はあの時点まで0%でしたからねぇ。」


「そうそう、で、翌年から我も我もと進学熱が高まったんですよね。」


「うちの子たちのレベルじゃ東大なんてそうそう簡単に受かるもんじゃないんですけど。」


「それに気が付かない所がうちの子達のいいところですよねぇ。」


「「「あっはっはっ。」」」


たしかにそうかもしれないと久美子は思った。


中間テスト後の補習もきちんと受ける子が多くなったし、授業のレベルも徐々にではあるが上がってきている。品行の方はお世辞にもいいとは言えないけれど、それでも少しはましになってきている気もする。新任の年は酷かったもんなぁ・・・しみじみ思い出していたら、沢田の事を思い出してしまった。


しょーがねぇなーと渋い顔をしながらも、久美子の頼みを一度も断らなかった。

卒業後も、呼び出せば必ず来てくれて・・・いつも甘い笑顔でそばに居てくれて・・・

そして今は・・・////


「なーに、ニヤニヤしてんのよっ。山口センセ!」


隣で飲んでいたはずの静香が立ち上がって久美子を引っ張っている。


「あ?へ?」


ぼんやりしているうちに、お開きの時間になってしまったらしい。


「山口先生も行きますよねぇ?次。」


江口が当然のように言う。


「では年寄りは消えますかな。さ、教頭先生、しんみりと飲みなおしませんか。」


校長が言うと、そばに居た丸山が


「あ、では私もそちらに。お若い方々は、お若い方同士で、ね。」


三人で肩を組んで行ってしまった。


「じゃあ我々も移動しましょう。」


「次はイタリアンにしましょ♪いい店があるんですのよ、ほほほ。」


ご機嫌な顔で久美子を引っ張って行く静香を振り払う事は出来なくて、久美子はため息をついた。慎は待っててくれるかなぁ・・・後で隙を見てメールでも打っておくか。



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矛盾発見しましたので手直ししました(汗)

お見苦しい点をお許し下さい。