原作・卒業後、おつきあい中。Confessionよりひと月後の慎ちゃんです。



はっきり言って、最近、

俺は、猿だ。



俺と久美子が本当の意味で結ばれたあの日からひと月が経っていた。

試験もなんとか無事終わり、今日から夏休みだ。



Monkey Bites 1




長年のトラウマを克服して「大人」になった俺は、

それまでの反動からか、ばかみたいに久美子の身体にのめり込んでいた。

それまで、どちらかと言うとまだ青いところの残っていた久美子の身体は、

俺と身体を重ねるうち少しずつ色つやを増してきたようだった。

25才の健康な肉体は、俺と言うパートナーを得、

体験を重ねることによって、一気に成熟への階段を駆け上っていった。

どちらかと言えば少年のようにも見えた華奢な背中や肩がしっとりとまろやかになり、

細く頼りなげだった腰と胸も存在感を増してきて輝くばかりになってきた。

女として花開く、って言うだろう?その過程を間近で見て、

しかもそれが俺の丹精の賜物なのだから、男としては堪らない訳で。

俺が開いて俺が育てた身体。

自分のためだけに花咲いたその身体を放っておける男が、

世の中にいるだろうか・・・

俺は有頂天だった。


で、俺はほとんど毎日のように久美子を抱いていた。

終わって離れたそばから、もう欲しくなる。

それこそところ構わずだ。

久美子の部屋で、って事もあったし、

夜中にこっそり黒田の風呂場でしたこともあった。

久美子の仕事帰りに迎えにいき、

俺の部屋へつれて帰ってくるなんてしょっちゅうだ。

一度など、俺の実家の俺の部屋でしたこともあった。

俺が監禁されていたときのことを思い出して久美子も感無量だったようだ。

当然、久美子はひどく抵抗したし俺も背徳的な気分になって異常に興奮したな。

お互い試験期間中(俺は自分ので久美子は生徒のと言う違いはあるが)

忙しいときも、隙を狙っては抱きすくめて。

時間がないのにどうしても我慢しきれなくなって

公園のトイレに連れ込もうとした事さえある。

さすがに殴られて未遂だったけど・・・

猿に自慰を教えると死ぬまでやるんだってよく言うけど、

俺の状態もそれとたいして変わらない。

白金時代の友人たちのいらんお世話のおかげで貯め込んだまま

塩漬けになってた知識を次々引っ張りだして、

試してみるのが楽しくて仕方がない。

玄関で立ったまま。

シャワーを浴びながら。

後ろから。

俺が下で。

座って。

服を着たまま。

あの手この手で言いくるめては久美子を抱いて、

終わったらまた別のやり方で。

楽しくて嬉しくて何度やっても飽きない。

ただ、久美子が痛がることは絶対にしなかった。

全く興味が湧かなくなっていたからというのもある。

この前、久々に皆で会ったとき、

うっちーが、大人の階段がどうとか言っていて

思わず口元が緩んでしまう。

「相手がヤンクミじゃさー、キスもほど遠いざんしょー。」

ふっ。そう思うか?うっちー。

ま、最初は俺もスマートに、とは行かなかったが

(それどころか俺の生涯で最大級とも言える

とんでもない醜態をさらしたが久美子は笑って許してくれた)、

今の俺は「大人の階段」をマッハで上昇中だ。

「さーねー。」

驚いて口々に詰め寄る友人たちにはとぼけておいて

緩む口元を引き締める。

まあ、お前らも頑張れよ。

世界が変わるぜ。



今日は久美子が部屋に来たので、洗面所で襲ってみた。

ここに来ると久美子はまずうがいをする。

そこを後ろから抱きしめて喉に唇をはわす。

「がらがらがら・・・ってなにしてるのかな?」

「お前が誘うから・・・」

「へ?なんだって?」

「そんな白い喉をのけぞらして見せつけて・・・」

「うがいしてんだから当然だろ。」

「俺の方に腰を突き出して・・・」

「手、洗ってたんだよ。屈むのは当たり前だろ!」

「胸元、わざとのぞかせて・・・」

「手を洗うのに屈んだだけだ!なんで見えるんだ。

あっ、鏡に映ってんのか。」

「ねぇ、こんなに煽っといて、

逃げるなんて言わないよね・・・?」

言いながら俺は、素早く服のしたから手を差し込んで、

胸をまさぐる。

同時に久美子の顔をこちらにひねって口付ける。

「こら。あ、・・・ん、んんっ。」

吐息が漏れ始めたところでさっと下着をずらし、いきなり入れる。

久美子の抗議の声が上がるが、気にせず事を進めると、

だんだん潤んでくるきれいな身体・・・

「久美子、見て・・・」

洗面台に手をついていた久美子は、

そう言うと目の前の鏡を見て息をのむ。

いつの間にか裸になっている俺の肉体と、

陶酔に浸っている自分の顔を目にして

久美子は我を忘れたようだった。

そのまま、思う存分楽しんで久美子が脱力するまで許さない。

充分楽しんだところで、久美子の身体を部屋へと運んだ。

そう、俺の最近のお気に入りはバックから。

後ろ姿にこんなにそそられるなんて、昔は思いもしなかった。

一度放ってもまだまだ元気な俺のために、

久美子の身体をベッドの端にうつぶせに置く。

上半身はベッドの上、腰から下はベッドの端からおちて

ちょうど四つん這いになるみたいな格好で

久美子の身体を横たえる。雌豹のポーズだ。

ベッドの脇に跪くと、ちょうどいい高さで

俺は久美子をそのまま貫いた・・・

胸もあわさない、顔も見えない、

肌もさわらない、キスも出来ない

この体勢は、俺のオスの部分を激しく刺激して、

普段と違った陶酔を与えてくれる。

正面から抱き合うときの、互いが互いをかき抱いて、

ともに登り詰めていくようなあの感覚は、

文字通り「愛を交わす」と言うにふさわしい。

抱いているのは感じているのは身体なのに、

心と心が触れ合っているような一体感を感じて、

切ないほど幸福になる。

それはそれで大好きなんだけど。

対して、今やっているのは純粋に肉体的行為って感じ。

最も原始的な、オスとしての本能。

交尾。

メスを手に入れ、タネをつける。

孕ませて醜い姿にして子を産ませて。

メスを自分だけのものにすると言う快感、征服欲。

俺の中の動物的感覚だけが研ぎすまされ

原始的な本能が、生への執着が、オスの悦びが、俺に押し寄せる。

めくるめくような「タネ付け感」に俺は酔う。

身体のただ一カ所だけで繋がって、思いきり中に放った。

どっと力が抜けて、ゆっくりと人間の俺が戻って来た。

同時に久美子に対する愛おしさが溢れて来て、

堪らず目の前のしっとり湿った美しい背中に口付けすると

強めに吸ったその痕が白い肌に赤く残る。

この痕のことをmonkey biteって言うんだと教えてくれたのは篠原だ。

あいつはなぜかやたらとスラングに詳しくて、いろんな猥語を教えてくれた。

完璧なブルックリン訛りを話せるんだと変な自慢もしていたな。

ライバルだった篠原の事と同時に切ない片思い時代とのことを

思い出して、俺は改めて篠原に勝ったことを喜んだ。

もう一度背中に口付けしてから、いつものように身体を拭いてやる。

ぐったりした久美子を風呂場へ抱いて行こうとしたら、

手を払われた。

「え?どした?」

気怠そうに身体を起こしてふらふらと歩いていく。

「いい・・・自分で行ける・・・」

「え?いいじゃん。一緒に入ろっ。」

振り向いてじろっと俺を睨んで

「いい。」

ぼそっと言う。

それ以上何も言えなくなって

俺は間抜けな格好でベッドに座っていた。

なんだか変だなと思いつつも、そのときは深くは考えなかった。

やがて出て来た久美子と交代で、シャワーを使う。

一通り洗ってさっぱりした気分になった俺は

きちんと身支度を済ませてベッドに座っている久美子に声をかける。

「あれ?どうしたんだ、そんなにきっちり服着て。

ちょっと早いけど飯でも食いにいくか?」

「いや。」

「なに?なんかあんの?」

「・・・お前さ・・・」

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら

背中越しに返事する。

「んー?」

「さっきの、あれ・・・

あれは、どういうつもりだ?」

久美子にも一本差し出しながら

ごくごくと水を飲んでふぅっと息をつく。

「さっきのって?」

久美子はじっと床を見つめている。

「お前、タネをつけるとかどうとか言ってた・・・」

どうやら俺は、行為の間、そんなことを口走っていたらしい。

「え?あー、たいした意味はないんだ。」

ふっと久美子が顔を上げたが

その眼は俺を見ていない。

「たいした意味はないのか・・・」

「そ。」

ちょっと照れながら説明すると、

久美子は呆れたように俺を睨んで言う。

「ほんとにタネがついたらどうするつもりだ、お前。」

「え?なんだ、そんなこと。」

俺の戯れ言を気にしてそんなことを心配してるのか。

子供が出来る機会は月に一度くらいだって言うし

経験が少ないうちは出来ないって言うしな。

「そんなこと、な。」

「そ。出来ときの覚悟はできてるし。」

その時はその時だし。

安心させようと思って軽く言う。

「ふーん。」

俺の顔をじっと見つめながら

「子供、欲しいか?お前・・・」

「んー?欲しい欲しい♪久美子の子供なら欲しー。

だから俺、子作りに励んでんじゃん。

お望みならもっとやってやろーか?」

片眼を瞑ってにやっと笑って言ってやる。

あれ、あんま赤くなんないな・・・

ま、いいや。

「なぁ、それよりさぁ。お前、腹空いてない?

飯でも食いに行こーぜ。

お前がこの前いいって言ってたパスタ屋でも行こ。」

言いながらジーパンを履き、Tシャツに手を伸ばす。

久美子が立ち上がったので承諾と受けとった俺は

携帯をもって手を差し出す。

「さ、行こっ。」

久美子はなんだか変な顔をして俺を見ていたが、ため息をつくと

「飯なぞ、食わん。お前ひとりで行け・・・

あたしは帰るよ。」

「えーっ?なんでなんで?」

久美子は盛大にため息をつくと

「ちょっと、な。」

たった今まで情熱的に愛し合っていたと言うのに。

取りつくしまもない言い方にちょっとかちんと来た俺は

「そーかよ。じゃっ。またな?」

そう素っ気なく言って居間で久美子を見送った。




______

あとがき


告解の後、ふたりの関係が安定するまでのお話です。

久美子さん視点のDog Days 1に続きます。


Lunaticから続く三部作の続編です。

今度は反対方向に暴走する慎ちゃんです。この回の慎ちゃんはワイド版8巻25ページのカラー表紙をイメージして書きました。梢子姐さんの一番のお気に入りだそうで、楽しそうでちょっとエッチでずる賢そうな感じがたまりません(笑)。


暗くて重くて変な話になると思いますが、お付き合いくださいませ。


双極子