原作で卒業後。2008のあとです。

On the White Cloud Valleyの続編です。



Confession



「俺さ、話しておきたいことがあるんだ・・・」

暗い部屋の中でベッドに並んで横たわり、暗い天井を見つめたままぽつりと慎が言った。


あれから・・・

結局、この日は一日中家にいた。いや、ベッドにいたと言ったほうが正確だろう。

昨夜久美子が持ち込んだ大量の食料をつまみながら、時にベッドで時に風呂でと

飽くことなく求め合ったふたりだったが、あたりが薄暗くなってきたところでようやく倦み、けだるい身体を並べて横たえていた。


ふいに、真面目な声で話し始めた慎を久美子が見つめた。

「昔、な。子供の頃・・・俺、レイプを見たんだ。」

「そりゃ、お前、ずいぶんな・・・」

犯人がそこにいるとでも言うように、怒った声で久美子が言う。

「見たときはさ、それがなんだかなんてわからなくて。ただ怖かっただけだった。

でも、俺も大きくなってくるとさ、あのときあの女が何されていたかのってのが

段々わかってきてさ・・・初めてレイプだったって気がついたんだ・・・

気がついたときはショックでさ。こんなひどいことがあるんだって・・・」

「・・・そうか。」

「でも、違ったんだ。」

「違った?」

「あとで知ったんだけど、そのふたりはつきあってたんだ。

レイプじゃなくてそう言うプレイだったってこと。」

「プレイ・・・」

「それにも驚いたんだけどさ、その女の人には別に旦那がいたんだ。」

「それって・・・」

「そ。不倫ってこと。不倫して野外SMプレイだぜ。よくよく思い返してみると、どっちも楽しんでたし、女の方は感じてた。髪つかまれて引きずられてさ、噛み付かれて

引っ掻かれて、無理矢理突っ込まれて感じてるんだぜ。」

「・・・」

「それに気がついてから、女が苦手になってさ。なんか、きたねーって・・・」

「・・・」

「野田や南に言わせると、俺って無駄な色気があるんだとさ。

それで女がよってくるって言うんだけど。俺の外身ばっかり見て

近づいてくる女なんて、あのとき不倫してよがってた女みたいに

欲望の固まりに見えて気持ちわりぃって思ってさ。

そんなのしか、周りにいなかったしな。」

「それで、女嫌いなのか・・・」

久美子が薄く笑う。

「それなのにさ。」

それまで天井を見つめていた慎が、久美子の方へ身体ごと向けて言った。

「あの女が脳裏に焼き付いて離れなかった。

いっつもオカズにしてたよ。」

「オカズ?」

「そ、自家発電のためのネタ、ってこと。」

///」

にやっと笑って覗き込む慎の顔がいやらしくて久美子は赤面した。

「小さな子供のときのことなのに、隅から隅まで鮮明に覚えてるんだ。

エロ本なんか子供だましってくらい、強烈でね。」

「お前、それでエロ本持ってないのか。」

「ああ、必要ないんだ。」

「えっち。」

「で、こっからが話の本筋。」

「なに?」

「俺さ、そんな感じだったから、好きな女とかもいなくてさ。

初めての恋なんだ。」

「へ?」

唐突に話が飛んで久美子は戸惑った。

「お前が、初めての恋の相手だって言ってんの。」

「お、おう・・・」

「ぷっ。なにそれ。

でさ、ずっとお前に片思いしてて、でも思いは通じないしさ。

そのうち、オカズのあの女の顔がお前にすり替わってた・・・」

「なにー!それで、おま。」

あまりのことに久美子は声を荒げて抗議する。

「まあ怒るなって。実際にお前にあれをやってみたいとか思ったことはなかったんだ。

想像の中で楽しんでただけでさ。」

「なに言ってんだ。やったじゃねーか。」

「まあ、つきあい始める前は、ってことだよ。」

「ふーん。って、じゃ、じゃあ?」

「そ。お前とつきあい始めてから、どうにも止まんなくて。

怖くてお前にさわれなかった。あんな衝動が自分の中にあるなんて

認めたくなかったんだ。お前にあんなこと絶対しちゃだめだって、知られたくない

ってずっと思ってた。だけど、お前のあれで一人でするの、すっげー気持ちよくてさ。

どうしてもやめられなかった。」

「・・・」

「そんなだから、お前にキスされて、俺、真っ白になっちゃってさ。」

「そうだったのか・・・」

「昨日、お前、泊まり支度してきてくれたろ?」

「あ、気付いてたのか。」

「あれみて抑えが効かなくなっちゃってさ。」

「そーなのか?」

「そ。お許しがデター、とか思っちゃってさ。そうしたらもう頭ん中

滅茶苦茶になっちゃって。正直、昨夜のことはあんまり覚えてないんだ・・・」

「なにー?おま、あれだけの事しでかしといて、よくもまぁ。」

慎は久美子のおでこに自分のそれをこつんとぶつけた。

「だからさ。ごめんな。」

「ん?」

「俺の恥ずかしい過去を告白したからって、納得するってもんでもないだろうけど。

これが俺だって知ってほしかったからさ。自分では気がついてなかったけど

結構なトラウマになってたみたいだ。昨日のでなんか吹っ切れたよ。ありがとな・・・」

真剣な声で見つめながらそう言う慎に、久美子は言った。

「お前の心、確かに受け取った。」

「ありがと・・・またお前に救われたよ・・・」

頬にちゅっと口付けをする。

「お前、あんなことになるってわかってたんじゃないのか・・・?」

「んー、まあなぁ。考えてたよりちょっとハードだったけどな。」

「・・・ごめん。」

「それに、まさか今日一日中とも思ってなかったけどなっ!」

「スミマセン。若いもんで。」

いけしゃあしゃあと慎はそんなことを言う。

「なんだと、コイツ。」

「いてっ、手加減しろって。」

ひとしきりじゃれ合ったあと、ふと気になって久美子は聞く。

「なあ、まだその、ネタってやつ・・・」

「ああ、使うのかってこと?」

笑いを含んで慎が答える。

「うん・・・」

「俺にはもう必要ない。」

「え?」

手を伸ばして久美子の胸を弄りながら慎が言う。

「こんないいもの、知ってんだ・・・他のなんかいらねぇ。

俺の記憶力は確かだからなー。お前の身体、隅から隅まで覚えたもん。」

「ば、ばかぁ!」

あれほどこなしたと言うのに、またも勃然ともよおしてきた慎は

久美子の胸に唇をはわせながら、腰を弄る。

「あ、・・・あん。」

「その可愛い声も、もう覚えた。全部知ってる。」

「じゃ、じゃあ、頭の中でだけ、やってろ!あたしはもう無理!

覚えてるんならあたし本体はいらな・・・ん!」

「新発見を夢見て常に新たな境地を開く。それが若者!」

「あ・・ん・・・」

「ふっ・・・」


・・・明日も出かけられそうにないふたりだった。



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In the Lunatic Red Night

On the White Cloud Valley

の二編だけでは慎ちゃん側の動機が弱いなーと思って書きました。

トラウマを克服した慎ちゃんは、単なるエロ青年になってしまいました。

お付き合いありがとうございました。


双極子


2010.5.5  UP  題名を「告解」から「Confession」に改題。英語になっただけで意味は変わっていません。