※原作・卒業後、おつきあい中
年の差なんて
先ほどの出来事に、俺は落ち込んでいた。
ふたりで出かけた旅行の帰り、いつものようにトラブルに巻き込まれた人を助けに飛び込んでトラブルに巻き込まれた久美子を俺は助けに入り、双方にけが人も出たりして大騒ぎになってしまったのだ。
それ自体は、まあいい。いつものことだ。
問題はその後だ。
事後処理のために警察と救急隊に連絡を取った俺は、天敵を前にして興奮気味の久美子に代わってテキパキと話をまとめていた。ざっと調書を取り終わり、連絡先を知らせておいてくれと言う要請で俺が名前を書こうとしたら、未成年者では困る、と言われてしまったのだ。
こんなことはいつものことなので、当然のように久美子はこなしていたが、旅行中ふたりの間がより近くなったような気がしていた俺は、現実を突きつけられて愕然としてしまった。更に、赤の他人の少年を連れて旅行していると言うことで久美子が警察官に小言を言われたことも俺を打ちのめした。
ふたりの間が対等だとちょっとでも思ってたなんて、ひどい自惚れじゃないか。
俺はどんだけガキなんだ・・・
「ん、どうした?」
帰りの車中、ずっと無言だった俺を気遣って久美子が聞いてきた。
「俺、ガキなんだな。おまえよりも6歳も年下の。」
「ああ、そうだな。」
「フォローなしかよ・・・」
「くすっ、事実だろ。そんなに気負いなさんな。」
「・・・」
俺はよっぽど情けない顔をしていたんだろう。
久美子は車を路肩に停めると俺の頭を胸元に抱き寄せて、髪をくしゃくしゃ撫でてくれた。
「あのなぁ、お前とあたしの年の差は、6歳だ。
お前の年齢の31.58%だな。
その分だけ、経験の差があるからあたしはお前より大人なんだ。
でもな、来年になったらどうだ?お前との年の差は6歳のままだけど
その差の割合はお前の年齢の30.00%になるだろう?」
「ああ。」
「10年後にはその差は20.69%
20年後には15.38%
30年後には12.24%
40年後には10.17%
50年後には8.70%
60年後には7.59%
70年後には6.74%。」
そうか・・・そう考えればいいのか。
納得した俺をよそに久美子の声は続く。
「80年後には6.06%
90年後には5.50%
100年後には5.04%
110年後には4.65%
120年後には4.31%
130年後には4.03%
140年後には3.77%
150年後には3.55%
160年後には3.35%
170年後には3.17%
180年後には3.02%
190年後には2.87%
200年後には・・」
「マテ。」
「へ?」
「年の差の話じゃなかったか?」
「ん?ま、細かいことは気にすんな。(バシバシ)(いってー)
つまりな、そうやって年を重ねるごとに、割合はどんどん減っていくんだ。」
「・・・」
「な?だから、今は焦ることなんかないんだ。
少しずつ、積み重ねていけばいいんだよ。」
俺の頭を抱いて髪を手で梳きながら話す久美子の優しい声を聞きながら、
俺は、久美子が無意識のうちにプロポーズしてくれたことに気がついていた。
70年後には、か・・・
お前の考える俺の未来には、もれなくお前がついているんだ。
ずっと一緒にいたいって思ってくれてるんだ。
年齢の差は埋まらないけれど、その差は思い出で埋められる。
そうだな。この先、まだまだ長い。
お前には死ぬまでついていくって誓ったもんな。
そう考えて少し立ち直った俺は、久美子をぎゅっと抱きしめた。
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バカ小話「恋の数学」シリーズ名物、暗算久美子さん。
電卓はSS書きの必須アイテムですよね。
そんなアホはお前だけだ!という至極尤もな突っ込みは、なしの方向で・・・
2009.2.28 ツキキワに投稿
このお話は、実はアダルトシリーズの続きになっていたりします。Early Autumn で長野に泊まりにいった帰り道での出来事、とか言う裏設定があります。
2010.6.17 サイトにアップ