原作・卒業後、おつきあい前。ノンアダルトシリーズ「汗」の慎視点。






見失った・・・!

あいつを見失ってしまった!

コンパに出なきゃならなくて、連絡入れるのがちょっと遅れた隙に。

もう9時過ぎなのに。

外で何やってるんだよ。

何、息切らしてんだよ。

「じゃ、な。」

あいつは慌てているらしくって用件だけ言って、電話は切れた。

どこ行くんだよ。

危ない事、しに行くんだろ。

どうして一人で行くんだよ。

いつもいつも俺を置いて。

どこ行ったんだよ。

探しに行かなきゃ。

でも、あいつが助けに行ってるはずの生徒達が歩いているのを見つけて

どっと力が抜ける。

あいつは騙されたのか。

ほっとしたのもつかの間、よくよく聞いてみると危ない目に合ってるんじゃないか。

行かなきゃ。

急いであいつのところへ。

車でなら間に合うかもしれない。

道案内に後輩達を乗せ、夜の街を急ぐ。

今、行ってやるからな。

仲間にも連絡を取って助けを乞う。

もうすぐ、行くからな。

あいつはいつも一人で解決しようとする。

誰にも頼らず、一人で突っ走って行ってしまう。

たまには俺を頼ってよ。

俺、そんなに頼りない?

まだ無事でいてくれよ。

俺が着くまで、何事もなくいてくれよ。

そう祈り続けて、車を飛ばす。

どうしてなかなか進まないんだ。

早く着いてくれ。

やっとの思いで暗い埠頭に辿り着き、車を止めて様子を伺う。

波の音と風の音、俺の荒い息遣い。

ドガッ、ドスッ。

鈍い物音が聞こえる。

数人の足音と怒声が聞こえる。

あそこだ。

あいつが殴られてる。

全身の血が逆流する。

怒髪天を突くとはこの事か。

「こいつに近づいたら、殺すぞ。」

考える間もなく手が出ていた。

たちまち一人、足元に沈む。

微かにあいつの呻き声が聞こえる。

大丈夫か。

こいつを片付けたらすぐにでも行くからな。

仲間達が駆けつけてきてくれたのを確認して

俺はあいつのそばに寄る。

大丈夫か。

ひどく殴られている。

血の匂いがする。

大丈夫なのか。

「イテテテ・・・」

良かった、生きてる・・・

ぐったりとした身体を抱き起こし、守るようにかき抱く。

こんな時くらい俺を頼って欲しい。

お前に突っ走るな、って言っても無駄だろうけど。

せめて俺を置いてくな。

俺はお前のそばに居たいんだ。

お前を守るって決めたから。

俺が頼りないガキでお前の方がずっと大人でも。

一人で解決出来ると思っても、俺を置いて行くな。

腕の中で荒い呼吸をしている細い身体を

俺はそっと抱きしめた。

もうどこにも行かせないって思いを込めて。

俺を置いてくなって願いを込めて。

ふいに、あいつの手のひらを感じる。

信じられない。

あいつの手が俺の頬を撫でてる。

俺を求めてる・・・!?

そして、とぎれとぎれに、でもはっきり聞こえた、あいつの言葉。

「わかった・・・ついて・・こい・・・」

それはあいつからの愛の言葉。

俺がそばにいてもいいって言う決意の言葉。

「うん、ずっと・・・」

そう言ってそっと触れた唇は、神聖な契約の徴。

これからの人生、俺のすべて、お前にあげるよ。

ずっと、ずっと、ついていく。

俺の全身全霊をかけて。

愛してる。

愛してる。

愛してる。

・・・

ずっと、俺のものだ。



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ここまでお読みくださいましてありがとうございます!

番外編2008の慎ちゃんです。「汗」を書いたあとどうしても慎ちゃん視点も書いてみたくて書いてみました。このままアダルトシリーズの最初のお話に続きます。


2009.10.24

2010.5.4  UP


双極子